大阪・梅田の駅から、歩いてわずか一分。ターミナルのただ中にありながら、SAI CLINIC は驚くほど静かだ。二十三坪ほどの空間に、診療にあたるのは崔煌植院長ただ一人と、二人の看護師。一日に迎える患者は、決して多くない。美容クリニックがひしめき合うこの街で、あえて“規模を追わない”道を選んだ院長に、選ばれ続けるクリニックのかたちを聞いた。
大手の“真逆”を、行く
崔院長は、大手美容クリニックで長く研鑽を積んだのち、独立した。豊富な症例を重ねた現場で、良さも、限界も見てきたという。
「大手には、大手にしかできないことがあります。ただ、僕がやりたかったのは、その真逆でした」。回転を上げ、効率を突き詰めるほど、そのしわ寄せはどこかで患者さんに向かってしまう。ゆっくり話したいのに、話せない。予約が詰まれば、待たせてしまう。それは、崔院長が思い描く医療のかたちではなかった。
一人ひとりに、ゆっくり時間をかけたかった。ファンになっていただいて、長く通っていただく。そういうクリニックがしたかったんです。
掲げるコンセプトは「美しく、歳を重ねる喜びを」。外見だけでなく、内側から自然な美しさを引き出し、心まで満たされる——そんな美容医療を目指している。立地にも、その哲学が表れている。梅田の一等地でありながら、あえて小さく構えた。入居までには審査を重ね、実現までに長い時間をかけたという。「遠方から通ってくださる方が、乗り換えずに来られるように。ターミナル駅なら、皆さんが通いやすいと思ったんです」。目の前の効率ではなく、長く通っていただく先を見越した選択だった。
一人に、たっぷりと向き合う
SAI CLINIC のカウンセリングは、驚くほど長い。医師である崔院長自身がじっくりと向き合い、そのうえで、費用や希望の相談にも時間をとる。良いことばかりでなく、リスクも含めて。
「ご納得いただけるまで、きちんとお話しする。それには、どうしても時間がいるんです」。大手にいた頃から“カウンセリングが長い”ことで知られていたという崔院長は、笑って言う。「今は、心ゆくまでお話しできます」。もっとも、来院される多くの方は、口コミやSNSで十分に調べたうえで訪れる。だから当日は、細かな説明よりも、最後の不安をていねいに解きほぐす時間になる。
うちに来てくださる方の中には、僕と話すことを楽しみに来てくださる方もいらっしゃいます。そう思っていただけたら、それも一つの価値だと思うんです。
美容外科医には、腕は確かでも対話は不得手という職人肌の人が少なくない。崔院長は、その対話こそを自らの付加価値だと考えている。
“覚えている”ということ
崔院長のクリニックには、毎朝の習慣がある。その日に来院される患者さん一人ひとりのことを、スタッフ全員で“予習”するのだ。飼っているペットのこと、お子さんの習い事、来月に控えたご予定——そうした一つひとつを記録に残し、次にお会いしたときに、さりげなく会話へ織り込む。
このクリニックは、私のことを覚えてくれている——そう感じていただけたら。それが、ファンになっていただける瞬間だと思うんです。
施術後のフォローも、崔院長自身が担う。翌日にはご自身でメッセージを送り、経過を尋ねる。照明の位置も角度もそろえ、まったく同じ条件で撮影したビフォーアフターを、加工せずにお届けする。気になることがあれば、院長が直接返事をする。「院長と直接やり取りできるクリニックは、そう多くないと思います。この時代だからこそ、思いっきりアナログをやろうと思って」。効率とは正反対の、時間をかけた丁寧な関係づくり。それを、崔院長はあえて選んでいる。
長く続く関係を、育てる
崔院長が専門とするのは、たるみへ向き合うエイジングケア。糸リフトは、半年から一年ごとにメンテナンスを重ねていく施術だ。一度で終わりではなく、また戻ってきていただく。だからこそ、患者さんとのあいだに長い時間が流れていく。
「先生、また来たよ」。そう言っていただける。一度きりではない、長く続く人間関係が作れる。僕は、このかたちが好きなんです。
開院当初から通い続けてくださる方が、驚くほど多いという。技術やシステムの前に、まずは人と人。その積み重ねが、SAI CLINIC の土台になっている。
“ちょうど良さ”を、守る
うまくいけば、次は多店舗展開へ——そう考える院長も多い。だが崔院長は、その道を選ばない。「痛みやダウンタイムなく、きれいに仕上げる。そのクオリティを SAI CLINIC のブランドとして担保しながら広げていくのは、簡単なことではないんです」。だからこそ、自分の目が届く範囲で、質を追い続けたいと語る。
忙しすぎず、暇すぎず。患者さんお一人おひとりに、きちんと向き合える。その“ちょうど良さ”を保つのが、今の目標です。
欲を出せば、どこかで質や接遇にほころびが出る。そのしわ寄せは、また患者さんに向かってしまう。だから、まずはこの場所を、しっかりと足場にする。取材のあいだ、崔院長の言葉はいつも、一つの軸へと帰っていった——患者さんにとって、どうか。
規模でも、価格でもない。選ばれるクリニックの条件があるとすれば、それは一人ひとりとの“関係の密度”なのかもしれない。急がないという選択が、いちばんの信頼になる。SAI CLINIC は、そのことを静かに教えてくれる。
