院長が決めたあと、
現場で何が起きるのか。
前編
整形外科医・宮井保尚理事長が語った「保険の延長線上に自費をつくる」道のり(#01)。そのスピンオフとして、今回は医師ではなく、現場を動かす3人に話を聞いた。美容医療導入のチャレンジフェーズにある南多摩クリニック(町田)の看護師長・事務長・管理部長が語る、院長目線では決して見えない「現場のリアル」。
※本記事は、南多摩クリニックのスタッフ3名に個別に実施したインタビューを、読みやすさのため座談会形式に再構成したものです。掲載内容はご本人の確認を経ています。

総合病院の病棟看護師を経て、皮膚科・形成外科に美容を併設するクリニックで立ち上げを複数経験。美容専門クリニックの勤務経験はなく、一貫して「保険と美容のあいだ」を歩いてきた。南多摩クリニックでは外来・訪問診療に加え、美容のカウンセリング・施術を担う。

南多摩クリニック 組織マネジメント担当
理学療法士として新千歳クリニックに入職し、リハビリテーション科主任を経て30歳で事務長に抜擢。新千歳の自費拡大を運営面から支えた経験を、南多摩クリニックの立ち上げに注いでいる。

南多摩クリニック 事務長 兼務
法人4院の給与・経理・労務を統括するキーパーソン。宮井理事長とはいとこ同士という縁で、南多摩クリニック継承直後の2020年から法人を支える。数字の面から自費導入を見つめてきた。
三者三様の入り口
― 編集部まずは皆さんのキャリアからうかがわせてください。小林さんは、美容のご経験が長いそうですね。

出発点は総合病院の病棟です。外科、消化器、脳神経、泌尿器科――混合病棟でひと通り経験しました。その後、近所にオープンする皮膚科・形成外科のクリニックに、オープニングスタッフとして入ったんです。そこが美容もやるクリニックで、美容経験のある先輩ナースに教わりながら覚えていきました。当時はまだ針脱毛の時代で、認定脱毛士の資格を取らせてもらったり。フェイスリフトの手術介助やレーザーも一通り経験しました。
そこから産休などを挟んで、高齢者の支援センターで地域と高齢者をつなぐ仕事をした時期もあります。その後も、皮膚科・形成外科クリニックで美容部門の立ち上げを任されて――というのを繰り返してきました。
― 編集部いわゆる「美容クリニック出身」なのかと思っていました。

それがないんですよ、美容オンリーのクリニックは。ずっと「保険をやりながら美容もやる」クリニックで働いてきました。だから、保険の患者さんがいる場所で美容を立ち上げるとどうなるかは、身体で分かっているつもりです。
南多摩に来たのは、家が近所だったこともありますが、内科は初心に帰るつもりで、整形外科は私にとって未知の分野。あと何年できるか分からない看護師人生で、新しい知識を自分のものにしたかった。それと、ここは訪問診療もやっているんです。昔、在宅医療がまだ一般的でなかった頃、「家に帰りたい」という患者さんのために先輩たちとボランティアでお宅を訪ねていたことがあって。在宅への想いもあって応募しました。
― 編集部関根さんは理学療法士から30歳で事務長という、かなり珍しいキャリアです。

結婚を機に北海道へ移ることになって、理学療法士の先輩の繋がりで新千歳クリニックを紹介してもらったのが2021年です。リハビリテーション系の大学の先生が非常勤で指導に来ている環境で、「ここなら成長できる」と感じたのが決め手でした。
入ってからはリハ科の主任として、新人教育や科の数字をどう上げるかに携わっていて。やっていくうちに「自分ごと」の範囲がどんどん広がっていったんです。他部署との関係に派生して、気づいたらクリニック全体に視野が広がっていた。その姿勢を評価していただいて、理事長から事務長を打診されました。純粋に嬉しかったですし、経営と患者さんと従業員――三方よしを上の視点から考えられるのが楽しみだな、と。
― 編集部理学療法士の経験は、事務長の仕事に活きていますか。

すごく活きています。リハビリって、患者さんの現在地とゴールをすり合わせて、手段を試して、うまくいかなければ「なぜか」を考えて、また試す。臨床推論と言うんですが、この仮説検証をとにかく高速で回す訓練をずっと受けてきました。事務長になった今も、まず小さく始めて、検証して、すぐ改善する。この思考の型はそのままです。
もうひとつは主任の経験ですね。価値観の違う人たちの矢印を、どう同じ方向に向けるか。同じ職種の中でも微妙なズレはあるし、他部署となればバックグラウンドがまるで違う。その調整の経験が、いま一番活きている気がします。
― 編集部住田さんは、宮井理事長と個人的なご縁があるとか。

実は、いとこ同士なんです(笑)。ちょうどコロナが流行り始めた頃、理事長がまだ個人で南多摩クリニックを継承した段階――2020年8月ですね。その頃に私がちょうど職を離れることになって、誘ってもらって10月に入りました。
いまは医療法人全体の管理部長として、4院の給与、お金まわり、労務やトラブル対応まで見ています。南多摩クリニックでは事務長も兼務しています。
― 編集部皆さんから見て、宮井理事長はどんな経営者ですか。

印象に残っているのは、継承してすぐの頃です。コロナ禍の真っ只中でしたが、新型コロナワクチンの接種を地域でいち早く始める決断をしました。継承から本当に早いタイミングで。従業員は大変ではありましたけど、社会的に意義のあることでしたし、結果として経営の安定した基盤にもつながった。とにかくスピード感のある経営者だと思います。

「頑張ろうとしている人を応援したい」と、本当によく口にする理事長です。誰かのやりたいことを支援するという姿勢は、僕自身の仕事観にもすごく影響を与えてもらっています。
戸惑いは、当然だった――導入初期の現場の空気
― 編集部院長が「美容をやる」と決めたあと、現場の空気は実際どうだったのでしょう。きれいごと抜きでうかがいたいです。

正直に言うと、戸惑いはありましたよ。保険診療は「患者様」、美容は「お客様」――スタッフの意識の中に、美容というと少し距離を感じる感覚が、なんとなくあるんです。「先生がやることでも、そんなに安易に引き受けないでください」と、心配する声をもらったこともあります。でも今思えば、それは保険診療のプロとして患者さんを守ってきた責任感があるからこその言葉なんですよね。
以前のクリニックは「美容をやります」と掲げた上でみんなが入ってきていたので、全員が最初から同じ方向を向けた。でもここは、何もないところに新しく取り入れる。長く勤めて、それぞれの専門に誇りを持ってきた方ほど、すぐには飲み込めない。それは当然のことだと思うんです。

新千歳でも似ていました。看護師の中でも美容に興味がある人・そうでない人はうっすら見えていて、実際に携わる人以外にとっては、まだ少し遠い出来事というか、自分ごとにはなっていない雰囲気だったんです。反対というより、距離がある。ただそれだと、クリニックとしての一体感は生まれない。そこはずっと課題として感じていました。

4院を横断的に見ている立場から言うと、美容導入がうまくいくかどうかは、結局まず「人」なんですよ。職員が美容に対してどう思っているか。反対する人が多くないクリニックは導入がスムーズに行きやすい。逆に、最初の理解を得るところに大きなパワーを使うようだと、立ち上がりに時間がかかります。人間関係のすれ違いというのは、思っている以上に力を使うものなので。美容導入に力を注ぐためには、そこを極力少なくしておいた方がいい。
― 編集部小林さんは、その空気にどう向き合ったのですか。

美容って、予防医学という点ではやっぱり「医療」なんですよね。年齢を重ねれば、誰もが老化に直面する。少しでも若々しく、元気でいたいという気持ちは、ここに通っている患者さんたちの中にも確かにある。だから「保険と美容の間の線引きをなくしてほしい」という話を、まずさせてもらいました。理解を得るところからのスタートです。

もうひとつ、スタッフに声をかけてきたのは、患者さんへの配慮です。保険で通っている患者さんが美容も受けている場合、他の患者さんがいる場では聞かれたくないこともあるじゃないですか。だから接遇の面で少し配慮しようね、と。小さなことですけど、保険の場に美容を迎え入れるときには、こういう細やかさが大事だと思っています。
美容導入がうまくいくクリニックと苦戦するクリニックの違いは、機械でも立地でもなく、まず『人』。最初の理解にどれだけパワーを使うかで、立ち上がりのスピードがまったく変わる
現場を動かした工夫――「自分ごと」になるまで
― 編集部その空気を、具体的にどうやって変えていったのでしょうか。

地味ですけど、情報共有をとにかく早く、細かく。「今度こういうのをやるよ」「こういうものを取り入れるよ」と、資料を作ったり、パンフレットが届いたらすぐ渡したり、その都度伝え続けました。みんなの認識を同じものにしたかったんです。
勉強会もやります。以前のクリニックではお昼休みを使って、経験のないスタッフのために私が患者役になってカウンセリングをやってみせたり。私一人の知識では伝えきれないことも多いので、ドクターに勉強会を開いてもらったり、業者さんの知識を借りたり。みんなで同じ気持ちで取り組まないと、美容って先に進まないんですよね。

新千歳でまずやったのは、職員に受けてもらうことです。職員割引をつくって、まず自分で体験してもらう。
それと、僕がよく話したのは「介護脱毛」の話です。以前デイケアで働いていた頃、高齢の方の身体を洗う場面で、毛のことを気にされる方が実際にいらっしゃった。脱毛というと若い人向けに聞こえて、現場のスタッフには自分ごとになりにくい。でも「将来、自分や自分の親がそうなったときに、少しでも負担をかけたくないという気持ちに寄り添える医療なんだ」と伝えると、見え方が変わるんです。
もうひとつは率直に、「安く受け続けられるためには、ある程度収益が立たないとこの機械はここに置いておけないよね」という話。自分へのメリットと、やる意味。その両方に声をかけることは意識していました。
― 編集部「まず職員が体験する」は、南多摩でも。

やっています。福利厚生として「なるべく安く受けさせてあげてください」と先生に交渉して。そうすると、スタッフが実際受けるんですよ。「これをやったら、このくらいの効果があるのね」と自分で分かる。すると患者さんに「私もやっているんですけど、いいんですよ」と言えるじゃないですか。この差は大きいです。
あとは、自費は頑張った分がそのままクリニックの売上になって、それがゆくゆくボーナスという形で自分たちに返ってくればいいよね、という話もしています。保険は点数が決まっていますから。自分の頑張りが返ってくる構造があるというのは、やる意味のひとつだと思うんです。実はこれ、保険診療でも同じで、ちょっとした物品の発注先を見直してコストを抑えるとか、そういう現場の整理も一緒にやってきました。節約できた分も、巡り巡って自分たちに返ってくるものなので。お金の流れを「自分ごと」にする感覚は、美容に限らず大事なんですよね。

教育の面では、「成長したい」という気持ちを支援する環境づくりに尽きると思っています。先輩に教わるだけでは不安だという声があれば、業者さんに「もう一度指導に来てもらえませんか」と都度お願いする。学びたい人には研修に出てもらって、出せる範囲で補助する。本の購入も補助する。
スタッフが成長したいと思える環境を作る。成長した結果、患者さんにいい医療が提供できる。この循環を回すことが、採用と教育の本質なんじゃないかと思っています。実際、新千歳では「アートメイクをやりたい」という看護師の応募が続いて、専任看護師3名の体制になりました。最初のひとりは――理事長が本当にどこからか引っ張ってくるんですよ(笑)。気づいたら人の輪が広がっている。周りとの関わりを大事にしている理事長だから、人が引き寄せられてくるんだと思います。
― 編集部いま、南多摩のスタッフの空気は変わってきましたか。

変わりました。今は、否定的な言葉は全く聞かれないです。カウンセリングは「まだ詳しくないから小林さんお願い」と言われますけど(笑)、美容の患者さんが増えることに「えっ」という雰囲気は、もうまったくない。スタッフ自身が施術を受けるようにもなって、現場にいて、意識が高まってきているのを感じます。
導入への戸惑いが、前向きな空気に変わるまで。変えたのは特別な施策ではなく、情報共有の速さと、スタッフ自身の体験だった
取材ご協力
- クリニック名
- 医療法人社団 真清の会 南多摩クリニック
- 所在地
- 〒194-0037 東京都町田市木曽西3-20-6 メディカルモール町田 1F
- 診療内容
- 整形外科・内科・訪問診療/美容医療(導入拡大中)
- 関連施設
- 新千歳クリニック/レディアス美容クリニック恵比寿・福岡