連載特集「美容クリニックの内装デザインのこだわり」
「訪れる人の体験をデザインする」、CX(顧客体験)を起点に美容・医療クリニックの空間を設計するユニオンテック株式会社(クリニック事業部)。 設計デザイナー・PM・施工管理を社内に内製した一気通貫体制で、施工実績は12,000件(2026年1月時点)、全国の案件に対応している。 見た目の美しさだけでなく、先生の世界観、そこで働くスタッフの働きやすさ、そしてその先の患者体験までを一枚の設計に織り込む—— その考え方について、クリニック事業部の伊藤惟之さんに伺いました。
伊藤さんのこれまでのご経歴と、ユニオンテックのクリニック事業部について教えてください。
私はユニオンテックに入る前も、設計と施工を手がける会社におり、当時は私自身が現場管理も担当していました。そうした経験を経てユニオンテックに入社して感じたのは、設計と施工を一貫して担えることの強さです。デザイナーと施工側が社内で密にコミュニケーションを取りながら進められるため、デザインの意図を現場まで共有しやすく、実現性まで考えた提案ができます。
もともとクリニックを全般的に手がけてきましたが、引き合いが増えてきたこともあり、今期からはクリニック事業部の中に、美容に特化したチームと保険診療に特化したチームを設け、さらに細分化しました。美容医療や自由診療はもちろん、保険診療まで、幅広く実績を持ったメンバーがそろっているのが特徴です。
美容医療のチームで大切にされている考え方を教えてください。
ホームページでも掲げているとおり、社内で意識しているのはCXデザイン=顧客体験のデザインです。とくに美容の領域は、大手クリニック等で経験を積んだ後、独立開業される先生も多くいらっしゃいます。ご自身の強みや、これまでの充実した環境で培った経験、そして独立後に実現したい患者さんとの向き合い方や施術——そうしたものを実現するために、まず先生が目指す世界観、ターゲット、そして競合がどこにあるかまでを踏まえてご提案しています。
その上で、先生が本当にやりたいサービスを、訪れた患者さんが空間でどう感じ、どう発信していくか。さらに、そこで働くスタッフの方々にとっても、働きやすく心地よい環境になっているか。この両方に相乗効果が生まれるよう、空間の雰囲気やレイアウト、動線までをきちんと理屈を持ってご提案する。これが私たちの大切にしている顧客体験(CX)デザインです。
先生のお考えを汲み取り、時に増幅して空間として表現する——かなり高度なディレクションだと感じます。
ありがとうございます。先生のやりたいことは初回のヒアリングで丁寧にお伺いしていくのですが、ヒアリングを進めていくと、目指すところのニュアンスが少しずつ変わってくることがよくあります。ですから「このような理解で合っていますか」と、最初からこまめに確認するようにしています。
私たちはクリニックに特化しているぶん、日々いろいろな先生とコミュニケーションをとっています。「この先生はこういう悩みがあったから、こういうレイアウトにした」という経験も踏まえて、「これがいいですよ」と決めつけるのではなく、先生と一緒に探っていく——そういう提案の仕方をとっています。
美容クリニックの内装をデザインするとき、最初に何から考え始めますか。
美容クリニックを選ぶうえで、先生の技術力は重要な要素の一つです。口コミや体験談、症例を見て来院される。そのうえで大事にしているのが、実際にクリニックに入った瞬間の驚き・感動です。ですから入ってすぐの受付まわりや待合エリアで、先生が掲げる空間の雰囲気やブランディングを、まず一発で感じていただけるようにします。
そして、先生の施術を受けた患者さんが思わず誰かに伝えたくなる・思わず写真に残したくなるような場所をしっかりとご用意する。そこを意識して設計しています。
設計から施工まで一貫して提供できることは、デザイン面にどう生きてきますか。
デザイナーが絵を描き、それを施工側が形にしていくわけですが、そこの意思疎通や作り方を社内で共有し、緻密に打ち合わせできるのが大きい。だからこそ、イメージとして描いたものを、より高い精度で実現しやすい体制だと思っています。物理的にも距離が近いので、そのぶんスピード感や精度にもつながっています。
「デザインだけの勝負ではなく、先生・患者・スタッフとのコミュニケーションの厚さこそが付加価値」と語る伊藤さん。
クリニックの世界観を空間で表現するために、素材・色・照明でどんな工夫をされていますか。
とても難しい質問ですね。専門性を前面に出される先生と、世界観を重視される先生とで、本当にさまざまなんです。美容クリニックの中でも、オペ(手術)中心でご自身の技術力を売りにされる先生もいれば、ご自身も美容を施しながら、タレントさんのように華やかさをアピールしていく先生もいらっしゃる。先生の“色”によって、照明の使い方は変わってきます。雰囲気を重視するところもあれば、オペのように色温度にこだわる先生もいらっしゃいます。
ただ、どこまでいってもクリニックですから、デザインと同じくらいメンテナンスのしやすさ・掃除のしやすさにも注意を払います。見た目が良くても掃除が大変だと、そのストレスは働くスタッフさんにかかってしまう。日々の小さな負担の積み重ねは、スタッフの働きやすさや、患者さんへのサービスにも影響しかねません。ですから見た目と同時に、働くスタッフの働きやすさも見ながら提案していく、というスタイルです。
実際、先生が「これを使いたい」と進んでいっても、後から打ち合わせに入ったスタッフさんが「使い勝手はこちらのほうがいい」とアドバイスされ、先生も「確かに」と変わっていく——そういうことはよくあります。関わる人すべての整合性をとることを大切にしています。
待合・カウンセリング・施術室など、部屋ごとに空間デザインの狙いを変えていますか。
ここは、先生がどんな施術を、どんな患者さんを対象に行うかによって大きく変わります。お化粧・カウンセリング・施術まで一つの部屋で完結させたいという先生もいれば、海外からのインバウンドで、ご家族連れでいらっしゃるケースを狙う先生もいます。その場合は、施術を受けている間にご家族が待てるような空間も求められます。ターゲットとする患者さん像によって、お部屋の数や取り方はまったく変わってくるのです。
「働きたい美容クリニックアワード」の主催もされています。働く人から選ばれる空間とは、どんな空間だとお考えですか。
やはり働く人同士のコミュニケーションや関係性は、とても大切だと考えています。ですから、コミュニケーションが取りやすい、相談しやすい環境であることが大切になります。
施術室やカウンセリングルーム、待合エリアのデザインには目が行きがちですが、意外と大事なのが、準備室やスタッフの休憩エリア、そして先生が少し集中して作業するための院長室が必要かどうかといった部分です。ですから初回のヒアリングでは、そうした細かいところまで最初にお伺いしています。スタッフが働きやすい環境を整えることが、先生を含めたクリニック全体のパフォーマンスにもつながると考えているからです。
再来(リピート)満足につながる空間づくりのポイントを挙げるとすると、どこにあるとお考えでしょうか。
1回で終わる患者さんと、何度か通う必要がある患者さんとで変わってきますが、中にはこの空間に来て自分磨きをしている、自分へのご褒美と考えながら美容を続けられる方もいらっしゃいます。ですから、自分にとって特別な時間を過ごせる場所という考え方をもとに、待合エリアを設計します。
最近いいなと思うのは、待合エリアでのドリンクサービスや、パウダーエリアでゆっくり過ごせるといった工夫です。美容医療でありながら、少しエステに近い感覚で、自分へのご褒美として通える。そうした体験価値を求める患者さんもいらっしゃると感じています。実際に、待ち時間の体験を高めるため、こだわりのエスプレッソマシンを導入しているクリニックのお話も伺いました。行くこと自体が楽しみになり、自分への投資になる——そうした流れが来ているのだと思います。
「訪れる人の体験をデザインする」をミッションに掲げるユニオンテックは、設計デザイナー・PM(プロジェクトマネージャー)・施工管理を社内に内製化。外注で分断されないぶん、デザイナーが描いたイメージと現場の施工の“ズレ”を最小化でき、実現性の高い空間づくりにつながる。創業以来の施工実績は12,000件(2026年1月時点)、対応エリアは全国に広がる。「デザインだけの勝負ではなく、先生・患者・スタッフとのコミュニケーションの厚さこそが付加価値」と伊藤さんは語る。
エリア選びから相談に乗るケースはありますか。
エリアは基本的に、先生ご自身が「このエリアで働きたい・勝負したい」と決めて来られることがほとんどです。ですから、こちらからエリアを提案することはそこまで多くありません。ただ、物件の紹介からお願いしたいというご依頼は正直あって、当社にはそうした物件紹介ができるサービスもあります。その場合は、大まかなエリアだけお伺いしたうえで、物件探しからお手伝いする、というやり方をしています。「このエリアがいいですよ」とこちらから踏み込むところまでは、まだやっていない、というのが正直なところです。
開業を成功させるうえで、早い段階から内装会社が入ることで防げる失敗はありますか。
当社は、物件契約がまだ済んでいない段階からのご相談も可能にしています。理由は、その物件を改装するにあたって設備のボリュームが足りるのかどうか、あるいはテナントの条件によって、配管など建築上の細かい設備が重たくなることがあるからです。そうした見えないところで大きなお金がかかる工事が発生するテナントも、実際にはあります。
ですから、事前に「こういうリスクがあります」「ここに逆に金額がかかってきそうです」といった事前調査から対応しています。想定外のコスト発生をできる限り抑え、そのぶん医療機器や空間といった、本当に投資すべきところにきちんと使っていただく。そのためのリスクヘッジです。「こことここで悩んでいるので現地調査からお願いできませんか」というご相談は非常に多く、この現地調査もセットでサービスに入っています。
これから美容クリニックの開業・内装を検討される院長へ、内装会社選びのアドバイスをお願いします。
自分たちがそうだから、というわけではないのですが、設計と施工を一貫して対応できる会社であれば、設計段階から施工性やコストを含めて相談できるため、スピードや予算の見通しを立てやすいというメリットがあります。
生成AIの進化によって、専門家でなくても空間のイメージを可視化しやすい時代になってきました。初回の打ち合わせで、先生のほうから「AIパースでこういう風にしたい」とお持ちになることもあります。そうした時代だからこそ、私たちの付加価値は経験値であり、先生のやりたいことは何なのかをきちんと整理し、それが先生の目指すクリニックにとって最適な選択なのかまで考え、ご提案することだと考えています。デザイン単体というよりも、トータルでのご提案。そこがいちばん大事にしているところです。結局のところ、大切なのはお客様・患者さん・ドクターとのコミュニケーションの厚さ、その回数だと思っています。
最後に、今後ユニオンテックとしてこんな空間をつくっていきたい、という展望をお聞かせください。
私たちの認知は、まだ都内が中心だと思っています。目指しているのは、日本ナンバーワン。美容・医療クリニックの空間づくりにおいて、全国の先生方から真っ先に相談いただける存在になることです。最近は日本全国対応でやらせていただいていますので、もっと都内以外の先生方にも声が届くような事業にしていきたい。そう考えています。
設計施工会社で現場管理に従事したのち、ユニオンテックへ。クリニック事業部で、美容・医療クリニックの空間デザインを担当。「訪れる人の体験をデザインする」CX(顧客体験)起点の設計を軸に、先生の世界観・スタッフの働きやすさ・患者体験を一体で捉えた空間づくりを手がける。