連載特集「美容クリニックの内装デザインのこだわり」
オフィス設計を主軸に、美容皮膚科・美容外科をはじめとするクリニック空間を数多く手がけてきた株式会社SPACE PRODUCE(スペプロ)。 同社が一貫して掲げるのは「利益を生む空間構造」と「人が辞めない・育つ空間」という考え方だ。見た目の美しさに終始せず、 将来の運営やスタッフの働きやすさまで織り込んで設計し、さらに子会社APEX BEAUTY LAB(ABL)が開業後の運用までを支える—— “内装を起点にした一気通貫”のクリニックづくりについて、小林佐理さんに伺いました。
小林さんのご経歴と、これまで手がけてこられた空間づくりについて教えてください。
新卒で大塚商会グループの会社に入り、そこから建築の分野へ進んで、現在のスペースプロデュースに在籍しています。当社の主軸はあくまでオフィスデザインですが、その知見を生かしてクリニックの空間も数多く手がけてまいりました。なかでも美容皮膚科・美容外科を中心に、多くの先生方のお手伝いをさせていただいています。
クリニック領域で、大切にされている基本姿勢はありますか。
ひと言で申し上げると「利益を生む空間構造」です。ただ美しく仕上げるだけでなく、その空間がきちんと経営の成果につながる設計になっているか。そこを土台に据えています。
美容クリニックの内装をデザインするとき、最初に何から考え始めますか。
まずは先生のクリニックのコンセプトを丁寧にお伺いし、そこからゾーニングに入ります。物件の広さを踏まえて、「どのくらいの部屋数があれば安定した経営につながるか」をご一緒に確認するのが、いちばん最初の作業です。デザインに入る前に、広さと部屋割りから収益の設計を固めていくイメージですね。
ビジュアルの美しさと、働きやすさ・利益を生む空間構造。デザイン上、この両立はどう図っていますか。
先に、そのクリニックが将来どのように運営されていくかを考えます。たとえば「今はドクターがお一人でも、いずれ3人体制になるかもしれない」といった将来像です。そこまで見据えて、まずは土台となる空間構造を整えます。ビジュアルの美しさは先生のお好みが起点になりますので、その後に「こういう方向はいかがでしょうか」とご提案しながら、ご一緒に詰めてまいります。
順序としては、利益を生む空間構造が土台。その上に美しさを重ねていく、という考え方です。
スペースプロデュースの内装デザインが、他社と最も違うと感じる点はどこでしょうか。
多くの内装会社では、レイアウトを確認したあと「デザインはどのようなものがお好みですか」という流れに進むことが多いと思います。当社ではその前に、スタッフの方が働きやすいか、長く安心して勤められる環境になっているかを大切にします。患者さんはもちろん、スタッフにとっても“一定の快適さ”が保たれる空間であることが重要で、その両面を同時に設計へ落とし込んでいきます。コンサルティングというわけではありませんが、患者さんとスタッフの双方に配慮しながら進めるのが、私たちの基本的な姿勢です。
患者さんの見えない場所——バックヤードや動線を経営の要と捉える理由を、デザインの視点から教えてください。
バックヤードは、将来の変化を見込んで設計します。今はバックヤードでも、2〜3年後には診療室を増やしていらっしゃるかもしれません。ですから、必要になったときに最小限の工事で増設できるよう、あらかじめ余白を持たせた作り方にしておきます。将来の拡張を見越して備えておく、ということですね。
動線には、患者さんの動線とスタッフの動線があります。美容クリニックでは、患者さん同士がなるべく顔を合わせずに済むよう配慮することが望まれるため、カウンセリング後にスムーズにご案内できる動線がとても重要になります。
意外と見落とされがちなのがスタッフルームです。休憩やお食事のスペースが手狭だと、働く方の満足度に影響し、離職につながってしまうことも少なくありません。だからこそ、そうした場所こそ丁寧に設計する。ここは私たちが必ず確認しているポイントです。
美容クリニックの世界観を空間で表現するために、素材・色・照明でどんな工夫をしていますか。
照明は専門的な判断が必要な領域ですので、基本的には私たちがお引き受けします。美容クリニックでは空間を暗くしすぎず、いかに明るく見せるかが前提になります。とくにパウダールームや、施術後にお話をするスペースは、影ができにくい照明を選びます。ビフォーアフターのお写真を撮る場面もありますので、照明計画は特に丁寧に検討します。
素材は、石材などを使えれば理想ですが、ご予算との兼ね合いもあります。その場合は塗装やクロスで、ご予算に収めながら質感を丁寧に仕上げていきます。色味も、黒を好まれる先生、白を好まれる先生とさまざまですので、ご要望とご予算に合わせて調整します。天井照明だけでなく間接照明も組み合わせながら、特別なことというより当たり前の積み重ねとして空間をつくり上げていく、という感覚です。
あえて照明を少し落とすとすれば、エントランスくらいでしょうか。「入った瞬間に良い印象を持っていただく」ために、ほんの少し抑えることはあります。ただ、今のクリニックは清潔感が何より大切ですので、基本は明るい空間のほうが好ましい。そこは一貫した考え方です。
待合・カウンセリング・施術室で、それぞれ空間デザインの狙いは変えていますか。
いちばん大切にしているのは待合です。ここが第一印象を左右します。エステではありませんので過度な演出は控えますが、それでも患者さんに「安心してお任せできる」と感じていただける品質は欠かせません。ですから待合にはしっかりとデザインをかけます。反対に、それ以外の場所は必要以上に手を加えません。メリハリをつけ、効果が出る場所に集中して投資する、という考え方です。
これまでの事例で、「このデザインは効果があった」と手応えを感じたものはありますか。
やはり待合=第一印象だと思います。患者さんが「どんなクリニックだろう」と確かめるとき、口コミサイトやSNSでまずご覧になるのは、先生のご経歴と待合の雰囲気です。そこに内装が確かに効いてきます。この2つがきちんと伝わることが、内装に求められる大切な役割だと考えています。
「内装を起点に、売上設計から運用まで一気通貫でつくる」とは、具体的にどういうことですか。
美容機器そのものは、先生のご希望や導入・レンタルのお考えがありますので、そこは別として、私たちが一気通貫でお引き受けできるのは、資金調達のサポート・各種手配・内装工事といった部分です。ここはしっかりと担います。
一方で、いわゆるPR(広告・集客)そのものは、私たちの領域とは考えていません。広告費に対してどれだけ効果が出るかを、確かな根拠を持ってお約束することは難しいからです。私たちがお引き受けするのは、魅力的な空間をつくり、その魅力が伝わる写真をお届けすることです。その先の、ドクターのご紹介や新しく入るスタッフの教育といった運用面は、子会社のABL(APEX BEAUTY LAB)が担っています。
デザイン段階から売上や運用のしやすさまで見据えておくことで、開業後にどんな差が生まれますか。
率直に申し上げると、先生のご技術が高ければ、内装が標準的でも医院は成り立ちます。ただ、それだけで多くのファンがつくとは限りません。だからこそ、清潔感があり、先生を信頼できそうだと感じていただけて、「ここに行ってみたい」と思っていただける——そうした空間やお写真が、開業後の差につながります。
集客そのものはPR会社やコンサルタントの専門領域ですので、私たちはそこには踏み込まず、つくり上げた空間の魅力が伝わる写真を、しっかりとお届けすることを大切にしています。専門外まで手を広げるのではなく、自分たちの強みである空間づくりに集中する。そのほうが、先生にとっても確かな価値をお届けできると考えています。
人材派遣でも人材紹介でもありません。開業のタイミングで実際に現場に入り、機器の手配や薬剤まわり、新しく入るスタッフの教育、オペレーションマニュアルの整備までを担う。そして運営が軌道に乗ったら、そっと現場を離れる——。「ここまで伴走する会社は多くないと思います。数多くのクリニックを手がけるなかでも、当社ならではの強みだと感じています」と小林さんは語る。内装(ハード)と運用(ソフト)の両輪でクリニックを支える、SPACE PRODUCEグループならではの体制だ。
これから美容クリニックの開業や内装を検討される院長へ、内装会社選びのアドバイスをお願いします。
最近は居抜き物件も多くご相談いただきます。以前のクリニックと診療科が近ければうまく活用できますが、大きく異なる場合は、内装を一から作り直す必要が出てきます。極端な例では、小児科だった物件を外科にする場合、求められる設備がまるで変わってきます。
一方で、独立される先生は強い思いを持って開業されますから、以前のクリニックと似すぎてしまうのも考えどころです。ですから私たちは、周辺のクリニックが治療室をどのくらいの広さで取っているか、先生専用のお部屋が必要かどうかなどを伺いながら、「この物件なら居抜きを活かせそうですね」とお伝えすることもあります。はじめから否定するのではなく、一つの選択肢としてご提案する。こうしたケースは今後さらに増えていくと思います。
また、経年による壁紙の傷みといったメンテナンスのご相談も少なくありません。実は、内装工事の中心はデザインよりも設備工事です。給排水、空調、そして電気容量の設計。とくに外科では電気容量の計算が重要になります。機器は先生がご購入されますが、それらを安定して使うための電気容量は、私たちがあらかじめきちんと見込んでおく必要があります。「内装は申し分ない、そのまま使える」と思える物件でも、実は空調の能力が足りない、ということは珍しくありません。そうした点を中心にご説明することが多いですね。見た目の印象だけであれば、塗装の色を変えるだけでも大きく変えられますから。
最後に、今後SPACE PRODUCEとしてこんな空間をつくっていきたい、という展望をお聞かせください。
美容クリニックに限らず、さまざまな診療科のクリニックを手がけていきたいと考えています。これからは保険診療と自由診療を組み合わせたハイブリッド型が増えていくはずです。眼科や婦人科など、保険診療だけにとどまらない形が出てきたときに、しっかりご対応できるよう、知識の面も含めて備えていきたいと思っています。
金融機関からの借り入れも以前より慎重になっていますので、まずは本当に必要なものから優先順位をつけて検討し、いわゆるB工事の指定業者とも調整しながら、確保できるご予算を丁寧に詰めていきます。「自分たちがこう作りたい」という思いよりも、先生が本当に求めていらっしゃるものを、どれだけ形にできるか。地方も含めた医療アクセスの変化も見据えながら、幅広いクリニックのお役に立てるよう努めていきたいと考えています。
オフィスデザインを主軸に、美容皮膚科・美容外科をはじめとするクリニック空間の設計を数多く手がける。「利益を生む空間構造」「人が辞めない・育つ空間」を軸に、内装から開業後の運用(子会社ABL)までを一気通貫で支援。