連載特集「美容クリニックの内装デザインのこだわり」
皮膚科では、開業時から美容医療を見据えて部屋を確保する例が増えている。一方、ほかの診療科では、開業してから自費診療の導入を考える医師が多いという。後から「やりたい」と思ったとき、広さや設備が壁にならないために、開業前に何を考えておくべきか。前身の会社時代から約25年にわたり医療施設づくりに携わり、ラカリテ設立後も600件以上の実績を重ねてきた代表の髙橋邦光さんに聞いた。
※本記事はご本人確認前の編集稿です。発言は趣旨を保って読みやすく整えています。末尾の将来展望は編集部による提案文のため、掲載前にご本人の確認をお願いします。
髙橋さんが医療施設の仕事を始めた経緯を教えてください。
私自身は設計者ではなく、内装会社で営業、積算、現場監督を経験してきました。当初は飲食店や物販店、オフィスなども手がけていましたが、医療施設の設計に可能性を感じて、この分野に取り組み始めたんです。
最初は実績がなく、なかなか依頼につながりませんでした。医療系の雑誌を通じて先生方との接点が生まれ、図面についても先生から教えていただきながら経験を積みました。少しずつご依頼が増え、気がつけば仕事は医療施設だけになっていました。
前身の会社から通算して、医療施設づくりには約25年携わっているそうですね。
前身の会社時代から数えると、医療施設づくりに携わって約25年になります。ラカリテは2016年に設立し、設立後の実績も600件を超えました。現在は年間60〜70件ほどのクリニックを手がけています。診療科を問わず設計していますし、200〜300坪規模の健診センターも担当しています。
開業時から保険診療と自費診療を組み合わせる動きは、広がっていますか。
私たちの実感では、開業時から美容医療を組み込むのは皮膚科の先生が中心です。まずは保険診療を軸に、美容も少し扱うところから始める。美容の需要が伸び、結果的に自費診療の比重が大きくなるクリニックもあります。
一方、内科など皮膚科以外の先生が、開業時から美容医療を組み込む例は、当社ではまだほとんど見ません。最初から保険と自費を組み合わせる開業が、すべての診療科に広がっているわけではないんです。
皮膚科以外では、どの段階で自費診療を考える先生が多いのでしょう。
むしろ開業してから、経営や患者さんのニーズを見ながら「次に何ができるか」と考える先生が多いと感じます。皮膚科以外でも、開業後に自費診療を取り入れたいという相談は増えています。ただ、その時点で初めて考えると、スペースや設備が足りないこともあります。
自費診療を皮膚科だけのものと捉えている先生もいるかもしれません。でも、診療科に応じた選択肢を知っておけば、開業後に患者さんの要望に応える幅が広がります。
開業支援の現場では、自費診療を提案しやすい状況ですか。
保険診療の開業支援と自費診療の導入支援は、まだ別の領域として扱われがちです。自費診療のメニューや費用感まで、開業時に十分検討されないこともあるでしょう。だからこそ、ほかの診療科でどのように導入できるのか、具体的な事例を共有していくことが大切だと思います。
皮膚科では、開業時の設計も変わってきましたか。
美容医療を取り入れる皮膚科は以前からありました。ただ、かつては「少しだけやってみる」という位置づけが多かった。最近は、将来の拡大を見据えて、初めから一部屋余分に確保する先生もいます。機器が増えると、従来の間取りでは手狭になりやすいからです。
従来の皮膚科は、25坪ほどに診察室と処置室を収めるような、コンパクトな設計も多くありました。そこに施術用の部屋を加えるとなると、物件選びの段階から考え方が変わります。
将来に備えて広めに借りると、家賃も上がりますね。
もちろん、使う予定のないスペースを広く取りすぎるわけにはいきません。皮膚科なら、必ずしも駅前の一等地である必要はないため、立地と賃料のバランスを見ながら、一部屋分の余裕を持たせるケースもあります。どこまで備えるかは、導入したいメニューと事業計画次第です。
自費診療を後から導入できるようにするには、何を確認すべきですか。
まずは電気容量です。機器を購入してから「電気が足りない」と分かると、追加工事に費用がかかります。建物によっては電源を増設できても、事前に確認しておかなければ判断できません。
次に通路幅です。移動して使う機器もあります。施術室に置けるかだけでなく、そこまで運べるか、日々の診療で無理なく動かせるかを見ておく必要があります。
部屋を細かく仕切っておけばよいのでしょうか。
個室を増やせば、空調や換気の設備も必要になり、費用が上がります。一方、音やにおいへの配慮から仕切りが必要な場合もある。自治体や保健所の指導が地域によって異なることもあるので、施術内容と地域の条件を踏まえて設計します。
洗面やパウダールームについてはどう考えますか。
皮膚科なら洗面台を備えることが多いですが、将来、美容医療をどの程度行うかによって必要な数は変わります。最初から二つ設けるのか、後で増やせるようにするのか。大切なのは、排水の位置まで見込んでおくことです。
皮膚科以外でも、開業後に自費診療を取り入れたいという相談はありますか。
あります。皮膚科以外でも、開業後に自費診療を導入したいという声は増えています。改修の相談は、代替わりや設備の老朽化をきっかけに寄せられることも多いですね。
後から洗面台などを増やす際に難しいのは排水です。給水と違い、排水には勾配と接続先が必要になります。設置したい場所に排水経路がないと、大がかりな工事になることもある。方法がまったくないわけではありませんが、開業時に位置と配管を考えておくほうが、選択肢を残せます。
保険診療と自費診療の患者動線は、分けたほうがよいのでしょうか。
入口、受付、待合を保険診療と自費診療で完全に分けるなら、相応の面積が必要です。最初から別々にすることを前提にせず、提供する診療内容と患者さんの動きを見ながら、どこを共用し、どこを分けるか考えるのが現実的です。
施術室を追加するなら、広さの目安はありますか。
一、二部屋を追加して、ある程度自由に使いたいなら、40坪程度が一つの目安です。一般的な計画より5〜10坪ほど余裕を見込むという考え方もあります。ただし、診療科、機器、物件の形によって必要な広さは変わります。
すでに開業しているクリニックでは、どこに施術スペースをつくりますか。
空いている第二診察室や、処置室の一部を使うことになるでしょう。診察する場所だけでなく、実際に施術する場所や機器を置く場所も必要です。開業時に余裕がないと、既存の部屋を区切るしかなく、診療の動線にも影響します。
開業時に自費診療を行うか、まだ決めていなくても構いません。導入する可能性があるなら、物件の広さ、電気容量、機器を運ぶ動線、洗面や排水の位置を設計者に伝えておく。将来必要になったとき、どこまで対応できるかを知ったうえで開業することが、後の改修や移転を考える際の判断材料になります。
先生の希望と、設計上の制約はどうすり合わせていますか。
まずは、どんな診療をしたいか、どんな間取りにしたいかを率直に話していただきます。難しいご希望でも、ただ否定するのではなく、実現した場合の使い勝手や費用への影響を説明し、別の方法を一緒に考えます。ご希望どおりにつくれても、診療しにくい空間になっては意味がありませんから。
医師が開業前に気づきにくい点はありますか。
病院勤務では、医師が診察室以外の動きを細かく見る機会は限られます。開業すると、診察室を行き来したり、処置や検査を確認したりする場面も増える。医師がなるべく動かずに診たいのか、患者さんの移動を減らしたいのか。そうした方針を聞いて、診療効率を損なわない動線を考えます。
診療科ごとに、基本の間取りは決まっていますか。
基本となる考え方はありますが、同じ30坪でも物件の形や入口の位置で間取りは変わります。診療科によって必要な部屋や医療機器も違う。だから、一つの型を当てはめるのではなく、それぞれの診療に合わせて設計します。
対応できる業務とエリアを教えてください。
主な仕事は、テナントに入る医療施設の内装設計・施工です。戸建てのクリニックでは設計監理も行います。設計監理の場合、工事は地元の工務店が担い、私たちは図面どおりに進んでいるか、材料や工程を確認しながら引き渡しまで関わります。この形なら全国にも対応しています。
大阪にも拠点を置いていますね。
関西の先生にも地元で対応できる会社として見つけていただけるよう、大阪に拠点を置き、関西向けの案内も設けています。名古屋や福岡にも対応しています。
設計を担当する方は何人いますか。
取材時点では、設計担当は東京に9人、大阪に3人います。医療施設の経験を積んだ設計者が、診療科や物件ごとに異なる条件を踏まえて計画しています。
これから開業する先生は、自費診療をいつ考え始めるべきでしょう。
将来、自費診療を導入する可能性があるなら、物件選びと設計の段階で伝えていただきたいですね。導入する時期や規模がまだ決まっていなくても、使えるスペースや設備の条件を確認できます。後から部屋や設備を増やせるかどうかは、最初の計画に左右されます。
後から手狭になった場合、移転も選択肢になりますか。
患者さんが増えて手狭になれば、近くの広い物件へ移る「発展的移転」を選ぶ先生もいます。ただ、開業してすぐの移転は負担が大きい。最初の物件でどこまで対応したいか、将来は移転も考えるかを、あらかじめ整理しておくとよいと思います。
たとえば小さく始めて需要を確かめ、必要になれば診療内容やスペースを広げる。最初からすべてを完成させるのではなく、次の一歩を選べる余地を残しておく考え方です。
最後に、将来の自費診療に備える開業設計と、今後のラカリテについて聞かせてください。
将来、自費診療を取り入れたいなら、候補のメニューを開業時から共有していただきたいです。場合によっては5〜10坪ほど余裕を持たせる、将来使う部屋を当面は倉庫にする、パウダールーム用のスペースと排水だけ先に確保する、といった方法があります。どこまで備えるかは費用との兼ね合いですが、「いま使わないから考えない」と決めてしまう前に、後からできることとできないことを知っておくことが大切です。
現状、開業時から自費診療を視野に入れるのは皮膚科の先生が中心です。一方で、皮膚科以外の先生からも、開業後に導入したいという相談は増えています。今後は診療科を問わず、そのニーズがさらに広がると考えています。私たちも、その変化を捉え、先生方が必要とすることを一歩先に考えて提案できる会社でありたいですね。
内装会社で営業・積算・現場監督を担当し、前身の会社時代から約25年にわたり医療施設づくりに携わる。2016年に株式会社ラカリテを設立。同社の実績は600件以上。保険診療の各科から美容皮膚科・美容外科、健診センターなどを手がける。共著に『クリニック開業を思い立ったら最初に読む本』(日本法令、2016年)。
所在地:東京都品川区西大井4-18-9(本社)/大阪府豊中市新千里東町1-1-2 シエリアタワー千里中央2106(大阪)
設立:2016年
許認可:特定建設業許可(特-3)第146367号/一級建築士事務所 東京都知事登録 第61976号
事業内容:医療施設のデザイン企画設計施工、改装・インテリア提案、クリニックモールの企画運営、管理メンテナンス、動物病院の企画設計施工 ほか
URL:https://www.laqualite.jp/