連載特集「美容クリニックの内装デザインのこだわり」
素材感を生かした繊細な設計と、設計から施工現場管理までの一貫対応を強みに、美容クリニックを中心に全国で内装を手がける株式会社タングラム。 「自分たちはデザイン会社ではなく、サービス業だと考えています」と語る國澤和朗さんが最優先するのは、機能・動線・使い勝手だ。 クライアントの抽象的な思いを“翻訳”して形にし、予算やスケジュールなどのルールの中で最大限の答えを出す—— その設計哲学と、AI時代に内装会社へ求められる変化について伺いました。
國澤さんのご経歴と、これまで手がけてこられた空間づくりについて教えてください。
横浜国立大学で建築学を専攻し、学部・大学院を通じて設計意匠を学びました。建築には設計・構造・歴史などさまざまな分野がありますが、私は4年間、設計意匠にこだわり続けたタイプです。その後、2006年に内装設計施工の会社へ入り、キャリアを重ねて、現在のタングラムに至ります。
いまは美容クリニックの内装も手がけられていますが、全体に占める割合はどれくらいですか。
現段階では、クリニック関係が全体の約3割です。残りは学習塾や美容室・ネイルサロン、飲食店、オフィスなど、幅広い業種の内装を手がけております。クリニックには一般診療(保険診療)も含まれますが数としては多くなく、いまは美容クリニックがかなりの割合を占めています。
美容クリニックの内装をデザインするとき、最初に何から考え、何を大切にされていますか。
私たちは、デザインで売っている会社ではないという認識をとても強く持っています。社内のスタッフにもよく言うのですが、タングラムの仕事は「デザイン」というより、サービス業・接客業だと。ですから、まずはお客さまのご要望をどれだけ拾い上げられるかがポイントで、それを設計やデザインに生かしていきます。
優先順位でいえば、機能や動線計画といった機能面が最重要です。デザインはもちろん重要なのですが、それ以上に設計が重要だと考えています。部屋の広さ、使い勝手、スタッフの動線、お客さまの動線——そうしたご要望を伺い、それが一番効率よく成り立つレイアウト・設計を、いちばん心がけています。
空間づくりで最も大切にしている考え方は何でしょうか。
クライアントは空間づくりのプロではありません。ですから、伝え方が抽象的な表現になったり、うまく言語化できていないことも多い。それを私たちが、いわば“通訳”のように形にしてお返しする。クライアントの思いを形に変えることが、いちばん重要だと考えています。
ただし、行き過ぎてもいけませんし、言われたそのままをつくるのも違う。「プロに頼んだら、こういう解釈になるんだ」と感じていただける、プラスアルファのラインを目指す、というイメージです。もちろん予算がありますから、そのルールの中で何ができるのかを最大限に考えること。そこが大きな鍵になります。
美容クリニックの内装ならではの、難しさや面白さはどんなところにありますか。
難しいのは、とくに美容クリニックの場合、患者さんは自費で高額のお金を払われるので、「それに見合う、豪華な内装にしてほしい」というご要望が出やすいこと。ただ、その価値観はクライアントによってまったく違うんです。そこをすり合わせていく作業は、いつも大変だなと感じます。
一方で、それが面白さでもあります。たとえば「家具はあまり高くないものがいい」と言われても、その基準はご本人にもわからないことが多い。ですから選択肢をお出しします。10万円のソファ、30万円、50万円、100万円……。「ちょうどいいのは30万円くらいかな」と思っていると、意外と100万円のものが選ばれて、「もう少しいいのはないの?」となることもある。そうすると「このグレードをご希望なら、他の内装も少し高級にしたほうがいいかもしれません」と追加のご提案をして、結果的に当初の予算から少し上がっていく。そういう動きは面白いところですね。金銭感覚も、インテリアがどれくらいするのかも、事前にはなかなかつかみにくいものですから。
部屋ごとに、空間デザインの狙いや工夫は変えていますか。
いちばんクリニックの顔になるのは、入口を入ったところの待合と受付です。ここは機能面というよりコマーシャル的な部分が大きいので、デザインを最大限にかけます。
一方、処置室になると今度は使い勝手の問題です。肌の色がきちんと分かるように、照明も白っぽい光を選びます。ただ、その白っぽい光を使う前提で待合のデザインをそのまま延長させると、逆にシンプルになりすぎてしまう。ですから照明や雰囲気のイメージを切り替えていきます。こうしてお金の使いどころを絞っていくのがポイントです。
もう一つ挙げるなら水回りです。美容クリニックではトイレ+パウダールームになります。水回りが綺麗であることは、内面を表すものとして、見せ方の面でも重要だとお話ししています。
これまでで「このデザインは効果があった」「とても喜ばれた」と手応えを感じたケースはありますか。
ひとつは、全国に展開する美容クリニックグループの多店舗展開を一手に担わせていただいたケースです。ちょうどコロナ禍の入り口で受注し、そのまま予定どおり工事・開業まで進めました。折しも国内の美容需要が一気に高まった時期で、店舗展開が当初計画から大きく加速。店舗ごとにデザインを変えたいというご要望に、1店舗ずつご提案・ご承認をいただきながら、5〜6のパターンで少しずつマイナーチェンジを重ねて応え続けました。機能面は共通させつつ、デザインを考え続ける——そうした積み重ねが実績となり、「あそこを手がけている会社なら」と、お問い合わせにつながっていきました。
もうひとつは、ご紹介でつくった2つの個人クリニックです。いずれも左官(さかん)調の、落ち着いた・女性的なデザインで仕上げました。当社はスタッフの半分以上が女性ということもあり、こうした柔らかなデザインが比較的多いのですが、これをホームページに掲載したところ印象が良かったようで、「あの優しいデザインを見た」という直接のお問い合わせが増えました。
内装は集客やブランディングにも欠かせないと思います。実際に効果を実感されることはありますか。
私たちの仕事は基本的に「つくるまで」なので、その後を直接見られるわけではありません。ただ、当社の特徴として継続利用・リピーターが非常に多いんです。全体の仕事のうち新規は3割ほどで、残りの7割ほどがリピート。そう考えると、私たちが提供しているものは一定の評価をいただけているのだと思います。それはデザインだけでなく、進め方や予算のコントロール、あるいは私たちと一緒に店舗をつくっていくうえでのストレスの少なさやスタッフの評判かもしれません。その一つとして「デザインが良くて集客につながった」と言っていただけることもあり、そのときに実感する、という感覚ですね。
「自分たちはデザイン会社ではなく、サービス業」と語る國澤さん。その言葉を裏づけるのが、仕事の約7割を占めるリピート・継続利用の多さだ。素材感を生かした繊細な設計に加え、進め方や予算コントロール、そして一緒につくるうえでのストレスの少なさ——設計から施工現場管理までを一貫して担うからこそ生まれる“安心感”が、次の依頼へとつながっている。「提案までの過程がとても大事。1〜2回の打ち合わせで自分たちの良さを表現しきれなければ、作戦ミスだと思っています」。
これから開業・内装を検討される院長へ、内装会社を選ぶうえでのポイントを教えてください。
私たちは、与えられたルールの中で最大限に何ができるかを考えるタイプです。たとえば「12月に開業したい」なら、11月中旬には工事を終える必要があり、10月頭には着工、業者選定はその1か月前まで、コンペはさらにその前……というように、ゴールから逆算してスケジュールを最初に詰めていきます。
ところが実際には、比較の途中で「まだ提案が出せないので2週間待ってほしい」という会社が出てきたり、ものすごく安い見積もりを出す会社が現れて、そちらに決まっていくこともあります。ただ、安い見積もりは往々にして非常にアバウトで、後から問題が起きて金額がどんどんつり上がってしまいがちです。私はよく先生方にお伝えするのですが、そもそも最初に引いたスケジュールを守れない会社が、その後の工事のスケジュールを守れるはずがない。開業が遅れて損をするのは、ほかでもない先生ご自身なんです。
見積もりも、私たちは比較的細かく作ってご説明しますが、正直、先生方がご覧になっても詳細まではつかみきれないと思います。だからこそ表面的な金額だけで判断するのは、とても危険です。ただ、提案している当事者がそれを言うと「自分を選ばせたいだけでは」と、どうしても斜めに見られてしまう。ですので、私は余計なことでも全部お伝えすることにしています。仮にそれで当社が選ばれなくても、クライアントが納得できるものができるなら、それでいい。逆に、そこまでお伝えしたうえで当社が選ばれた場合は、私たちが「できる」とお約束したスケジュールは、必ず守ります。
最後に、今後タングラムとしての展望や、感じている変化についてお聞かせください。
美容クリニックについて「特にこうしていきたい」という強い方向性があるわけではありません。おかげさまで実績を評価していただけるようになってきたので、引き続きクライアントのご要望に最大限応えていく、ということに尽きると思います。
ただ、最近は生成AIの進化で、空間をプロデュースする会社に求められることが変わってきていると感じます。最初のヒアリングで、生成AIでつくった画像を「こういう風にしたい」とお持ちになる先生も出てきました。それ自体は素晴らしいことで、否定するつもりはまったくありません。けれど、その画像を基準に3社でコンペとなると、設計する側はとても悩みます。見本をなるべく忠実になぞるべきなのか、それともデザイナーとしての自負から、差別化のためにエッジを効かせるべきなのか。
私がもしクライアント側なら、「自分で考えて“これがいい”と思ったもの」がやはり良いと感じると思うんです。だとすれば、なるべくそのイメージに近づけたほうがいい。でも、そうすると他社との比較がしづらくなる。結局、個性を出して負けると「元の生成AIに近いほうが良かった」ということになりかねない——提案が難しい時代になってきました。だからこそ、冒頭でお話ししたように、私たちが大切にしている「サービス業である」ということ、機能・動線・使い勝手を優先しているということを、これからはデザイン面以上に、誠実に、より強く表現していく。そうやって少しずつ時代に合わせていくしかないのかな、と考えています。
横浜国立大学で建築(設計意匠)を学び、2006年に設計会社へ。現在は株式会社タングラムで、美容クリニックを中心とした内装デザインを手がける。「デザイン会社ではなく、サービス業」を掲げ、機能・動線・使い勝手を最優先に、素材感を生かした設計と施工現場管理までの一貫対応を強みとする。