辞める前に気づく ─ 面談を「査定の場」から「本音の場」に変える設計
面談の時間は取っている。「最近どう?」と声もかけている。それでも、退職の申し出は突然やってくる——。本音が出てこないのは、聞き方が悪いからではなく、面談の「設計」が伝わっていないからかもしれません。MEDICAL COO・横山浩二氏が面談に入る前に必ずやるのは、話す中身より先に、その面談の構成を伝えることでした。連載第3回は、辞める前に気づくための面談の組み立て方を扱います。
「最近どう?」で、本音が出てこない理由
面談を「査定の場」から「本音が出る場」に変えたいとき、最初に何を変えるのか。横山氏は、よくある面談の入り方を、聞かれる側の立場から見直すところから話を始めました。
横山さんのコメント「面談というと、『最近どう?』という話から入ることが多いと思います。でも、そう聞かれたスタッフの気持ちを考えると、まず、ここが本音を言っていい場所なのかどうかが分からない。いまこの面談で何か評価されているのかどうかも、分からないんです。」
聞く側にとっては、打ち解けるための一言です。けれど聞かれる側には、この場が何のための時間なのかが見えていません。本音を話していい時間なのか、評価につながる時間なのか。それが分からないまま話せば、答えは無難なところに落ち着きます。本音が出てこないのは、スタッフが隠しているからではなく、話していい場かどうかを判断する材料が渡されていないからです。
最初に変えるのは、面談の「構成」
そこで横山氏が必ずやるのが、面談に入る前に、その面談の構成を伝えることです。使うのは、コーチングの分野で広く知られるGROWモデルでした。
横山さんのコメント「僕らは、面談に入る前提として、必ず面談の構成を面談者にお伝えします。そのときによく使わせていただくのが、GROWモデルです。まずは、面談のゴールを伝えましょう、と。『今日は本音を話す場として、ざっくばらんに話す会になっています』なのか、『今日は査定を前提に、◯◯さんの仕事ぶりを聞く機会になっています』なのか。まずゴールをお伝えします。」
「今日は本音の場か、査定の場か」を、最初に宣言する
ポイントは、本音の場と査定の場を、同じ面談の中で混ぜないことです。どちらの面談にも意味があります。ただ、どちらの時間なのかを最初に言葉にしておかないと、聞かれる側は常に「これは評価に響くのか」を気にしながら話すことになります。冒頭のひと言で、その迷いを先に取り除いておくわけです。
ゴールを伝えたあとは、次の流れで進めます。
横山さんのコメント「本音を聞く場であれば、まず、今日は本音を聞く場です、と伝える。そのうえで、現状はこんな感じです、と。その本音に対して、◯◯さん自身がどうしていきたいのか、どんな選択肢を持っているのか。最後に、この面談が終わったときにこういう状態になっていたらいいですよね、というところまで決めていただく。まずは面談の構成を作るところからスタートします。」
横山氏の説明を、GROWモデルの4つの段階に沿って整理すると次のようになります。
| 段階 | 面談の中でやること |
|---|---|
| G(Goal)ゴール | 今日の面談が「本音を話す場」なのか「査定を前提とした場」なのかを、最初に伝える |
| R(Reality)現状 | いまどんな状況なのかを、話してもらう |
| O(Options)選択肢 | その状況に対して、本人がどうしていきたいのか、どんな選択肢を持っているのかを聞く |
| W(Will)決断 | 面談が終わったときにどういう状態になっていたらいいかを、本人に決めてもらう |
ここで大事なのは、GROWモデルという型そのものより、その流れを面談の前に相手へ伝えていることです。何を話し、どこで終わる時間なのかが分かっていれば、話す側は安心して中身に入れます。最後に決めるのが院長ではなく本人である、という点も見逃せません。面談の出口を、本人の言葉で締めくくる設計になっています。
- 今日の面談は「本音の場」か「査定の場」か
- それを、面談の冒頭でどう言葉にして伝えるか
- 現状 → 選択肢 → 決断、の順で聞いていく流れ
- 面談が終わったとき、どういう状態になっていたらいいか(本人に決めてもらう)
院長が面談すると、本音が出にくい
構成を伝えても、なお残る問題があります。誰が聞くのかです。院長が自ら面談をしている美容クリニックは多いと思いますが、横山氏はそこに構造的な難しさがあると言います。
横山さんのコメント「院長には、どうしても本音を話しにくいところがあると思います。トップですから、この面談ひとつで自分の身がどうなるか、ということにもなります。それに院長も人間なので、何か言われれば嫌な気持ちにもなると思うんです。だから、本音はなかなか出づらいと思っています。」
これは院長の人柄の問題ではありません。いちばん上に立つ人が聞き手になると、話す側は自分の処遇を意識せずにはいられない。そして聞く側の院長にも、受け止めにくい言葉があります。どちらかが悪いのではなく、立場の組み合わせとして本音が出にくい。そう捉えておくと、次の打ち手が考えやすくなります。
まずは、テキストで拾う
院長が面談を担う場合に、横山氏がまず入れるのが事前のヒアリングシートです。
横山さんのコメント「院長が面談をやる場合、僕らはまず、面談の場でいきなり何かを話してもらうのではなく、事前にヒアリングシートのようなもので聞いておきます。テキストで、まず出てくるかどうか。テキストでも出てこない場合は、やはり院内で面談を担う人たちを作っていかないといけないと思っています。たとえば、主任などですね。」
対面で院長を前にすると言いにくいことも、事前に文字で書く形なら出てくることがあります。面談の場では、書かれた内容を手がかりに話を始められる。その場の空気で本音を引き出そうとするのではなく、本音が出てくる経路を一本増やしておくという考え方です。それでも出てこないなら、聞き手そのものを変える段階に進みます。
では、誰が聞くのか ─ 3つの関わり方
院内に聞き手を育てるにしても、最初から任せられるとは限りません。横山氏は、クリニックの状況に合わせて3つの関わり方を使い分けています。
横山さんのコメント「関わり方は3パターンあります。1つは、面談のやり方が分からない場合に、やり方をお伝えして、現場の方にやっていただくパターン。2つ目は同席のパターンで、第三者も入って評価をさせていただく。3つ目は、全部お受けして、僕らが対応させていただくパターンです。」
| 関わり方 | 内容 | 向いている状況 |
|---|---|---|
| ① やり方を渡す | 面談の進め方を伝え、院内の人が面談を行う | 聞き手になれる主任・リーダーがいて、進め方が分からない |
| ② 同席する | 院内の面談に第三者が同席する | 院内で進めたいが、第三者の目線も入れたい |
| ③ 外部が担う | 面談そのものを外部が引き受ける | 院内に聞き手がまだいない/院長と直接では話しにくい |
※「向いている状況」は、取材内容をもとに編集部で整理したものです。
3つは優劣ではなく、段階として見ることもできます。外部が担うところから始めて、同席に移り、最後はやり方を渡して院内で回す。半年〜1年で自走してもらう「卒業型」という、横山氏の支援の基本方針(プロフィール)とも重なる順番です。面談もまた、いずれは院内の人が担える形にしていくものとして設計されています。
「呼ばれた=やばい」を、仕組みで消す
誰が聞くかと並んで、横山氏が重視しているのがいつ面談をするかです。
横山さんのコメント「その都度のタイミングで面談をやるよりも、僕たちがおすすめしているのは、定期的に、きちんと面談の時間を事前にスケジューリングしておくことです。呼ばれたから、私いま、やばいと思われているんじゃないか——そう思われること自体が、面談に影響してくる可能性があるので。そういうところも含めて、すべてスケジューリングさせていただくことが多いですね。」
何かあったときにだけ呼ばれる面談は、呼ばれた時点で「何か言われるのではないか」という構えを生みます。構えたまま話せば、本音は出てきません。全員が、決まった時期に、決まったように面談を受ける。そうしておけば、呼ばれること自体に特別な意味がなくなります。面談の中身を工夫する前に、面談の置き方で本音の出やすさが変わるということです。
いちばん効く設問
では、面談シートの中で、もっとも効く設問は何か。横山氏が挙げたのは、ひとつの問いでした。
横山さんのコメント「『いま、やりがいや目的を持って仕事に取り組めていますか』——これは結構聞くと思います。ないのであれば、一緒に作っていきましょう。あるのであれば、それをいかに組織の目的に沿わせて目標設定をしていくか、という話になる。すべてはここに尽きると思っていて、あるかないかは関係なく、実際にいまどういうふうに勤務に向かっているかが、すごく大事なんです。」
この設問のよいところは、「ある」と答えても「ない」と答えても、次の一歩につながることです。ないなら一緒に作る。あるなら、それを組織の目的とつなげて目標にする。答えによって評価が上下する問いではなく、本人の働き方を一緒に考えるための問いになっています。
さらに、答えの中身から、その人に合った関わり方も見えてきます。
横山さんのコメント「たとえば、職場の人たちと話すのが好きで、楽しく来ているんです、という方であれば、フォロワータイプというか、みんなと調和しながら働く方だと思います。だとしたら、その調和をより大きくしていくために、一緒に何かイベントを企画しましょうか、という話になったりもする。何を目的に、何をやりがいに、このクリニックに通ってきているのか。それが、設問としていちばん大事だと思います。」
やりがいは、成果や数字だけとは限りません。人と話すのが好き、職場の雰囲気が好き、という答えも立派な目的です。その人がこのクリニックに通ってくる理由を知っていれば、辞めたくなる前の変化にも気づきやすくなる。「辞める前に気づく」ための面談は、突き詰めるとこの一問に行き着くのかもしれません。
退職者の話を聞いて、院長がもっとも驚くこと
最後に、辞めた方への聞き取りで、院長がもっとも驚くことは何かを聞きました。
横山さんのコメント「驚かれることで言うと、やはり人間関係です。ここの人間関係がよくなかった、という話を聞かされたとき、院長は気づいていないことのほうが多いんです。院長が思っていた原因とまったく違っていたり、院長が信頼していた人たちのところに実は原因があった、ということも結構あります。院長の視点はここですが、退職した方の視点はこうなので、一緒に考えていきませんか——そうお伝えすることは多いですね。」
院長の目に映っている組織と、現場で働く人が感じている組織は、同じとは限りません。とくに人間関係は、院長の前ではいちばん見えにくいところです。ここで大切なのは、誰かを悪者にすることではなく、見えている景色が違っていたと知ること。横山氏の言葉が「一緒に考えていきませんか」で終わっているのは、そのためだと思います。
そして、退職者の話で初めて知ることを、在籍中に知ることができれば、それが「辞める前に気づく」ということです。構成を伝える、聞き手を選ぶ、定期的に置く、やりがいを聞く。この回で扱ったことは、すべてそのための準備です。
面談の設計を、もう一度
- 構成を先に伝える——「今日は本音の場か、査定の場か」を冒頭で宣言し、ゴール → 現状 → 選択肢 → 決断の順で進める
- 聞き手を選ぶ——院長が聞くと本音が出にくいことを前提に置く。まずは事前のヒアリングシートでテキストから拾う
- 関わり方を使い分ける——やり方を渡す/同席する/外部が担う。いずれは院内で回せる形へ
- 定期的に置く——事前にスケジューリングして、「呼ばれた=やばい」をなくす
- やりがいを聞く——「やりがいや目的を持って仕事に取り組めていますか」。答えがあってもなくても、次の一歩につなげる
面談は、話を聞く技術の前に、話してもらえる場を用意する設計の話です。本音が出てくる場があれば、組織は辞める前に気づくことができます。次回は、組織のはじまりまでさかのぼります。開業前に決めておくことと、1人目の採用で見るべきところ、分院展開で最初に壊れる場所——開業のときから組織をつくる、を扱います。
