クリニック開業、税理士にはいつ相談するか ─ 「決める前」の相談で広がる選択肢
税理士に相談するのは、物件が決まり融資の申し込みが見えてからでよい、と考える勤務医は少なくない。顧問契約が始まるのは開業後だから、という理由である。しかし、融資の審査に出す確定申告書は、開業を決める前の数年ですでに出来上がっている。医療機関の関与200件超、クリニック開業支援100件超の税理士・米山憲子氏は、相談の線を「開業を考えた時、開業の1〜2年前」に引く。その理由と、決める前に整えられるものを聞いた。(構成/ドカリー編集部)
- 米山氏は、税理士への相談時期の線を「開業を考えはじめた時、開業の1〜2年前」に引いている。同氏の事務所では、顧問契約の開始前から確定申告書や保有資産を確認する
- 物件探しや融資の申し込みが始まる前なら、確定申告書や保有資産を点検し、事業計画にも早い段階から反映できる
- 投資用の区分マンションは、売却を求める金融機関がある。
- 米山氏の支援先では、1年目黒字・6か月後の単月黒字・据置12か月を事業計画の目安にしている
- 公庫と民間の順番、医療機器のリースと購入は、米山氏が支援先で採っている使い分けがある
- 開業初年度に落としやすいのは、消費税の課税・免税の判定と、青色申告承認申請の提出時期の2つである
顧問契約が始まる前でも相談の線は、開業の1〜2年前にある
「そろそろ開業かな」と思った段階が、いちばんよい
税理士への相談は、物件が決まり、融資の申し込みが見えてからで十分だ、と考えられがちである。顧問契約と顧問料が発生するのは開業後なのだから、それまでは頼むことがない、という理屈だ。米山氏の答えは違う。
米山 憲子「『そろそろ開業かな、2年後くらいかな』と思った段階で来ていただくのが、いちばんよいです。顧問料が発生するのは開業後で構いません。それでも早く来てほしいのは、確定申告書の内容によって、お金を借りにくくなる方がいらっしゃるからです」(米山氏、以下同)
相談の線は、開業の1〜2年前にある。米山氏の事務所では、顧問契約の開始を開業後に置き、それまでの期間を、確定申告書や保有資産の状況を確認する時間に充てている。相談料や契約の開始時期は事務所によって異なるため、初回面談で確認したい。
この「1〜2年前」は、米山氏が支援先で勧めている時期であり、開業の形態や個人の資産状況で前後する。すでに不動産を保有している人、借入がある人は、もう少し早く動いたほうが整理の時間を取れる。
遅れて困るのは、税理士ではなく先生の側
相談が遅いと税理士の側がやりにくい、ということはない、と米山氏は言う。困るのは先生の側である。融資の審査に出す確定申告書は、直近の1年分だけではなく、過去数年分をさかのぼって見られる。相談が遅れると、修正のきかない状態のまま申し込みを迎える。
物件が決まってから確定申告書の問題に気づいても、過去の取引や資産状況まで自由に変えられるわけではない。申告内容に誤りがあれば訂正の手続きは検討できるが、適法に申告した結果や、すでに行った投資・借入はそのまま審査材料になる。次の申告や資産整理を待つあいだに、候補物件を逃すこともある。
「決める前」に整えられるものは、3つある
相談を1〜2年前に置くと、整えられるものが3つ出てくる。いずれも、物件が決まってからでは間に合わないか、間に合っても選択肢が狭くなるものだ。
- 確定申告書の中身 ── 給与水準に対する理想の貯蓄額、不動産所得の内容、借入の状況
- 保有資産の形 ── 投資用の区分マンションなど、融資の審査に影響する資産の整理
- 届出の期限 ── 青色申告承認申請書の3月15日。不動産所得がある人は、開業日ではなくこの日が期限になる
物件探しや融資の前に相談すると選択肢を残しやすい
物件が決まってからでは、動かしにくいものがある
開業準備は、候補地の選定、物件の申し込み、内装や医療機器の見積り、融資の申し込みへと進んでいく。一つずつ契約や期限が生じるため、物件が決まったあとに、確定申告書や保有資産の問題が見つかっても、準備全体を止めにくい。
一方、物件を探し始める前なら、確定申告書と借入の状況を確認し、投資用不動産を整理するかどうかを検討できる。候補地ごとの売上を試算し、無理のない借入額や返済計画を考える時間も取れる。米山氏が早めの相談を勧めるのは、税務手続きを先に始めるためではなく、開業時の選択肢を残すためである。
相談する段階によって、確認できることが変わる
| 相談する段階 | 税理士と確認したいこと | 用意するもの |
|---|---|---|
| 開業を考え始めたとき | 確定申告書の内容、保有資産と借入、青色申告承認申請の期限 | 直近数年分の確定申告書、資産・借入の一覧 |
| エリア・物件を検討するとき | 候補地ごとの売上、診療科に応じた原価率・人件費率・広告費率、必要な開業資金 | 候補エリア、物件条件、想定する診療メニューと料金 |
| 融資を申し込む前 | 初年度と月次の損益、返済計画、公庫と民間の組み合わせ、医療機器の購入とリース | 内装・機器の見積り、自己資金、借入希望額 |
表1 早い段階で相談するほど、申告書や資産の点検だけでなく、物件選びや事業計画にも税理士の知見を反映しやすい。
では、開業前の確定申告書の何が、融資を左右するのか。
融資を申し込む前に開業前の確定申告書を、いちど見直す
投資用の区分マンションは、売却を求める金融機関がある
米山氏の支援先で、融資に影響した資産として挙がるのが、投資用の区分マンションである。勤務医のうちに節税や資産形成の目的で購入する例は珍しくない。ところが、開業の融資を申し込む段階になると、区分マンションを売却してからでないと融資しない、とする金融機関があるという。
米山 憲子「物件が決まって、いざ融資を申し込もうという段階で、この決算書では貸しにくいと言われた先生がいらっしゃいました。区分マンションをまとめて売却して、たまたますぐに買い手がついたので、滑り込みで融資が通りました。早めに売って、きれいにした状態で事業の融資を申し込むほうが安心です」
この先生は、区分マンションを7件まとめて売却した。買い手がすぐについたのは幸運で、売れなければ融資の申し込みが止まっていた。物件が決まった後に売却を始めると、売れるまでの期間が読めず、物件の契約と融資の実行を待たせることになる。
購入時の価格が市場を上回っている場合は注意
5年ほど前に購入した物件であれば、値上がりしていて売却額で残債を返せることが多い、というのが米山氏の実感である。売って残債を返せば、金融機関の求める「きれいな状態」になる。
問題は、購入時の価格が市場価格を上回っている区分マンションだ。売却しても残債が残り、その借金を抱えたまま事業の融資を申し込むことになる。米山氏の支援先では、すでに1億円規模の借入がある先生が、区分マンションが残っていることを理由に、追加融資が難しいと金融機関から言われた例もあるという。
保有資産の評価は金融機関ごとに異なり、区分マンションが常に不利になるわけではない。ただ、自分の物件の残債と市場価格がどの関係にあるかは、申し込みの前に確かめておきたい。
不動産を持っていなくても、給与の確定申告書を見せておく
不動産を持っていなければ、確定申告書に問題はない、と考えるかもしれない。米山氏は、不動産のない先生にも、給与の確定申告書を見せてもらうという。見るのは、収入に対する貯蓄の水準である。
給与水準に対して貯蓄が少ないと、金融機関からは資金管理の面を見られる、というのが米山氏の説明だ。問題がなければ「このくらいなら余裕がある」と先生に伝えられるし、問題があれば、開業までの1〜2年で直せる。相談が早いことの意味は、ここにもある。
不動産所得がある人は、すでに「事業を営む人」として扱われる
区分マンションの家賃収入がある人は、すでに不動産所得を生む事業を始めている。ここで落としやすいのが、青色申告承認申請書の期限だ。1月16日以後に新たに事業を始めた人は原則として開始日から2か月以内だが、以前から不動産所得などの事業がある人が新たに青色申告を選ぶ場合は、青色にしたい年の3月15日が期限になる(2026年9月時点。個別事情は税理士に確認)。
「不動産は関係ない」と思って、5月開業なら5月から2か月以内に出せばよいと考えると、本来の期限である3月15日を過ぎている。その年は白色申告となり、青色申告の特典を享受できず、万が一赤字の場合は翌年以降に繰り越せない。米山氏が「いちばんもったいない」と言うのがこの落とし方である。
確定申告書と資産の形を整えたら、次に金融機関が見るのは事業計画である。
金融機関に事業計画を出すとき問われるのは「返済の原資をどう作るか」
米山氏の支援先での目安は、1年目黒字と6か月後の単月黒字
事業計画に何を書けば通るか、という問いに、一律の答えはない。金融機関ごとに見方が異なり、診療科や自己資金の額でも変わる。米山氏が支援先で計画を組むときの目安は、次のとおりである。
米山 憲子「1年目に黒字になっていること。そして、6か月後には月次の損益で黒字になっている計画かどうかです。据置を12か月いただくことが多いので、返済の原資を利益からきちんと取れる計画にしておきます。借りたお金を返せるかどうかの根拠は売上ですから、売上をどうやって立てるのか、それを示せるかが問われます」
「1年目黒字」「6か月で単月黒字」「据置12か月」は、米山氏が支援先で用いている目安であり、金融機関が一律に求める基準ではない。診療科によって開業直後の立ち上がりは異なり、自己資金の厚みや借入額でも変わる。自院の条件で、税理士と金融機関に確認したい。
据置12か月のあいだに、単月黒字へ届くか
据置期間とは、借入の元金の返済を猶予する期間である。据置中は利息だけを払い、期間が終わると元金の返済が始まる。米山氏の支援先では、開業融資で12か月の据置をもらうことが多いという。
据置が終わると、毎月の返済額がそのまま資金繰りに乗る。それまでに単月の損益が黒字に届いていなければ、返済の原資が利益から出ず、手元の資金を取り崩すことになる。6か月後に単月黒字、という目安は、据置12か月の折り返しで黒字に届き、残りの6か月で返済に耐える利益を積む、という時間の組み方だ。
借入額の根拠は、売上の立て方で説明する
美容皮膚科では、内装と医療機器で油断すると2億円規模の借入になる、と米山氏は言う。これは米山氏の支援先で見た一例であり、規模は院によって大きく異なる。ただ、借入額が大きくなるほど、金融機関が見るのは「返せるか」であり、その根拠は売上の立て方になる。
自費診療のクリニックでは、SNSのフォロワー数など、集患の見込みを示す材料を出す先生もいる。金融機関側は自費診療の広告費の相場に詳しくないため、説得の材料として使いやすい面はある、と米山氏は見る。一方で、無理な計画で借りて、計画どおりに立ち上がらなければ、困るのは先生自身だ。目標の数字は、金融機関向けではなく、自院の実力に見合った水準で立てる。
売上の立て方は、場所とも切り離せない。名前がすでに知られている先生は比較的苦労が少ないが、そうでなければ立地が売上の見込みを左右する。米山氏の支援先での実感として、都心の激戦区は価格競争に巻き込まれやすく、落ち着いた住宅地で競合の少ないエリアのほうがうまくいく例も見る、という。
これは一般則ではなく、診療科や先生の強みで変わる。価格で勝負するのか、集患の工夫で勝負するのか。半年後に単月で収支が取れる売上予測を作ったとき、その根拠を説明できるかが問われる。
金融機関に出す前に、自院で埋める数字
事業計画を金融機関に出す前に、自院で埋めておきたい数字を表にした。上から順に埋めると、単月黒字に必要な月の売上と、据置が終わったあとの返済に耐えられるかが見える。数字は税理士と一緒に作るものだが、先生自身が一度手を動かしておくと、金融機関の質問に自分の言葉で答えられる。
| 項目 | 自院の数字 | 出し方 |
|---|---|---|
| ① 月の固定費 | 家賃、人件費、リース料、水道光熱費の合計 | |
| ② 変動費率 | 原価率+広告費率。診療科ごとの目安を税理士に聞く | |
| 単月黒字に必要な月の売上 | ① ÷(1 − ②) | |
| ③ 6か月目の売上見込み | 診療メニューと料金、集患の見込みから。根拠を一言で書けるか | |
| ④ 12か月目の売上見込み | 同上 | |
| ⑤ 1年目の累計損益 | 月ごとの売上見込み − 月ごとの費用の合計 | |
| ⑥ 据置終了後の月の返済額 | 借入額 ÷ 返済回数(元金)+ 利息。金融機関の条件で | |
| 返済の原資 | 12か月目の月の利益 − ⑥。プラスになっているか ※減価償却、所得税等は要考慮 |
表2 金融機関に出す前に、自院で埋める数字。「単月黒字に必要な月の売上」と「返済の原資」の2行が、事業計画の芯になる。数字の目安は診療科と地域で異なるため、税理士と埋める。
事業計画ができたら、次はどこから借りるかである。
公庫と民間をどう組み合わせるか借入先の順番にも、考え方がある
公庫の融資額は、制度と計画、自院の条件で変わる
日本政策金融公庫は、国が全額出資する政策金融機関で、創業期の事業者への融資を扱う。開業医の資金調達でも、公庫と民間の金融機関(地方銀行、信用金庫など)を組み合わせることが多い。
米山氏の経験では、公庫からいきなり1億円規模を借りるのは難しく、運転資金として3,000万円ほどが目安になるという。この金額は米山氏の支援先での経験にもとづく例であり、公庫の制度上の上限や、個々の審査結果を示すものではない。制度の内容は公庫の最新の案内で確認したい。
米山氏は、民間を先に使う組み方を採っている
公庫と民間のどちらから先に申し込むか。米山氏は、順番をはっきり決めている。
米山 憲子「まず民間の金融機関で開業前融資は確保してスタートするのが、私のやり方です。民間は、開業後は実績を重視するため開業前より借りにくくなります。公庫は困ったときに助けてくれるので、取っておきます。最後は、公庫だと思っています」
理由の中心は、開業後に追加資金が必要になった場合の選択肢を残すことにある。ただし、公庫が将来の追加融資を保証するわけではなく、民間と公庫のどちらを先に使うべきかは、地域の金融機関、借入額、担保・保証、制度上の融資枠によって変わる。ここで示すのは、米山氏が支援先で採っている一つの組み方である。
公庫で先に借りると、十分な返済実績がない段階では次の調達が難しくなる場合もある、と米山氏は説明する。そのため、開業時に公庫の枠をどこまで使うかを、将来の追加投資や運転資金の可能性まで含めて決めている。
借りる先が決まったら、次は医療機器をどう持つかである。
金利が上がる局面では医療機器のリースと購入を、5年で線を引いて考える
2年前なら「借入で購入」と言い切れた
医療機器を、借入で購入するか、リースにするか。米山氏の答えは、2年前と今で変わっている。
米山 憲子「2年前なら、金利が低いので借入で購入、と言い切れました。いまは金利が上がってきているので、固定という意味でリースが選択肢に上がってきています。まず、融資枠で組めるなら借りて購入する。枠を超えるならリースを検討する。リースにするのは、5年ほどで買い替えるものです」
2026年9月時点で、国内の金利は上昇局面にある。借入の金利が変動型であれば、返済中に金利が上がる可能性を織り込んでおきたい。リースは契約時にリース料が固定されるため、金利上昇の影響を受けにくい。米山氏が「固定という意味で」と言うのはこの点だ。
融資枠で組めるなら購入、超えるならリース
米山氏の使い分けは、まず融資枠で組めるかどうかで線を引く。融資で買えるなら、所有権が自院にあり、途中で処分の自由もある購入を選ぶ。融資枠を超える分をリースに回す。両者の一般的な違いを表にした。
| 比べる点 | 借入で購入 | リース |
|---|---|---|
| 金利・料率 | 変動型なら返済中に上がる可能性がある。固定型もある | 契約時にリース料が固定される。料率は契約時の金利水準を反映する |
| 所有権 | 自院にある | リース会社にある(契約終了後の扱いは契約による) |
| 途中の見直し | 売却や買い替えの自由がある | 原則として中途解約できない。残リース料の一括支払いになることが多い |
| 初期の資金 | 融資枠を使う。自己資金を入れることもある | 融資枠を使わない。枠を温存できる |
| 向くもの(米山氏) | 長く使う機器。融資枠で組めるもの | 5年ほどで買い替えるもの。融資枠を超えるもの |
| 自院で確かめること | 金利の型(変動・固定)、返済期間、機器の耐用年数 | リース期間、料率、終了後の扱い、中途解約の条件 |
表3 借入で購入とリースの一般的な違い。契約条件は金融機関・リース会社ごとに異なるため、見積りで確かめる。「向くもの」の行は米山氏の使い分け。
5年で買い替えるものを、リースにする
米山氏がリースの対象にするのは、5年ほどで買い替えるものである。美容医療の機器は新機種が出るサイクルが短く、5年後に同じ機器を使い続けているとは限らない。買い替えを前提にする機器を、5年程度のリースで組めば、リース期間の終了と買い替えの時期がそろう。
長く使うもの、たとえば診察室や処置室の基本的な設備は、購入して長く使うほうが総額で有利になることが多い。ただし、米山氏は「トータルの投資を5年で見たとき、いまはどちらがよいか判断しにくい局面」だとも言う。金利が動いている以上、契約の直前に、借入の金利とリースの料率を並べて比べ直す。
開業までの借入と機器が決まれば、最後に、開業前後で落としやすいものが2つある。
開業初年度に落としやすいのは消費税の判定と、青色申告承認申請の時期
消費税が課税か免税か。2年前の不動産売却が、初年度の判定を変える
個人事業の消費税は、原則として前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる。基準期間の売上が1,000万円以下でも、前年1月1日から6月30日までの特定期間で判定が必要になる場合がある。開業初年度も、インボイス登録など別の要件で課税事業者になることがあるため、税理士に確認が必要である(2026年9月時点)。
ここに、投資用不動産が関係する。投資用マンションの売却は、建物部分が課税売上になる(土地は非課税)。開業の2年前に区分マンションを売却して建物の売却額が1,000万円を超えていれば、開業初年度の基準期間に課税売上があることになり、初年度から課税事業者になる。
米山氏は、2年前に投資物件を売った人が開業初年度から課税事業者になっている例があり、聞き取りが漏れていると危ない、と言う。判定は個別の事情で異なるため、税理士は総合的に判断する。先生の側でできるのは、過去数年の不動産の売却を、聞かれる前に伝えておくことである。
| 確認すること | なぜ見るか | 自院の状況 |
|---|---|---|
| 開業の2年前(前々年)に、投資用不動産を売却したか | 建物部分の売却額が課税売上になる。1,000万円を超えると初年度から課税事業者 | |
| 開業の前年に、不動産の売却や事業の売上があったか | 特定期間(前年1〜6月)の課税売上高と、代替判定に使える給与等支払額を確認する | |
| 自由診療の売上見込み | 保険診療は非課税、自由診療は課税。自由診療の比率が高いほど、課税事業者になった年の納税額が大きい | |
| 2年目以降の判定 | 開業初年度の課税売上高が、3年目の判定に使われる |
表4 消費税の課税・免税で確認すること。制度は2026年9月時点。判定は個別の事情で異なるため、税理士に確認する。
青色申告承認申請は、遅れるとその年が白色になる
青色申告承認申請書の期限は、原則としてその年の3月15日である。その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合は、開始日から2か月以内に出せばよい。ただし、不動産所得などですでに事業を営んでいる人は「新たに開始」に当たらないため、青色にしたい年の3月15日が期限になる(2026年9月時点の制度)。
期限を過ぎると、その年は白色申告になる。白色申告では、事業の赤字を翌年以降に繰り越せない。青色申告なら、純損失を翌年以後3年間繰り越して、翌年以降の所得から差し引ける。
開業初年度は、コストがかかることから赤字になることが多い。とくに11月や12月に開業すると、初年度は費用ばかりで売上が少なく、赤字が大きくなりがちだ。
その赤字を繰り越せるかどうかで、2年目・3年目の納税額が変わる。米山氏が「11月・12月開業だと赤字になりがちなのに、繰越ができない」と落とし方を挙げるのはこのためである。
この2つは、開業支援に慣れていないと落としやすい
消費税の判定と、青色申告承認申請の時期。どちらも制度としては難しくない。落とすのは、先生の過去の申告や資産の状況を聞き取っていないときである。米山氏は、この2つを「開業支援に慣れていないと落としやすいところ」として挙げる。
米山 憲子「消費税が課税なのか免税なのか。青色申告承認申請をいつ出すのか。この2つは、開業支援に慣れていないと落としやすいところです。ですから私は、初めてお会いした方にも、確定申告の内容を必ずうかがいます」
確定申告の内容を聞くのは、融資のためだけではない。初年度の消費税と青色申告の判定が、その中に入っているからである。相談を1〜2年前に置く理由は、ここでもう一度つながる。
では、そうした聞き取りをしてくれる税理士を、どう見分けるか。
医療に詳しい税理士かどうかは3つの反応で分かる
自分の診療科を伝えて、数字が返ってくるか
税理士事務所のサイトに「医療に強い」と書いてあっても、開業支援の経験がどれだけあるかは外から分かりにくい。米山氏が挙げる見分け方は、初回の相談での反応にある。
米山 憲子「美容なら、原価率、人件費率、広告費率がすぐに出てくるかどうかです。ご自身の専門が皮膚科なのか外科なのかを伝えたときに、数字が出てくるか。保険診療の内科や耳鼻科でも同じで、事業計画を立ててくれるかどうか。それから、保健所の開設届のタイミング、医療法人、一般社団法人、MS法人といったキーワードについてきてくれるか。そこで分かります」
1つめは、数字である。美容皮膚科と美容外科では原価率も広告費率も違う。自分の診療科を伝えたときに、その診療科の目安が会話の中で出てくるかどうか。数字が出てこなければ、事業計画を組むときに、先生が自分で数字を持ち込むことになる。
事業計画を立ててくれるか
2つめは、事業計画を立ててくれるかどうかである。記帳と申告だけを引き受ける事務所と、開業前の事業計画から関わる事務所では、物件選びや資金調達の段階でできることが違う。
融資を申し込む前に、金融機関へ出す計画を一緒に作ってくれるか。据置期間や返済の原資まで見て組んでくれるか。初回の相談で「事業計画はどこまで一緒に作りますか」と聞けば分かる。
4つのキーワードについてきてくれるか
3つめは、キーワードである。米山氏が挙げたのは次の4つだ。いずれも、医療機関の開業と経営に固有の話題で、医療に慣れていないと会話が続かない。
- 保健所の開設届のタイミング ── 診療所の開設届は開設後10日以内に保健所へ出す(医療法)。保険診療なら、地方厚生局への保険医療機関の指定申請と順序を組むことになる
- 医療法人 ── 法人化の時期と要件。本連載Vol.2で扱う
- 一般社団法人 ── 医療法人以外の法人形態での開設。要件と使いどころ
- MS法人 ── 医療機関の周辺業務を担う法人。家族構成や事業承継とあわせて出てくる選択肢
これらの言葉に対して、説明が返ってくるか、質問が返ってくるか、話が止まるか。反応で、その事務所の医療分野の経験が見える。3つの反応を、質問と一緒に表にした。
| 初回の相談で聞くこと | 返ってきてほしい反応 | 自院のメモ |
|---|---|---|
| 「私の診療科は◯◯です。原価率や広告費率はどのくらいを見ますか」 | 診療科ごとの目安が、条件付きで出てくる。「院によりますが」と前置きしつつ、数字で答える | |
| 「事業計画は、どこまで一緒に作りますか」 | 1年目の損益、月次の損益、据置と返済計画まで作る、と答える | |
| 「開設届と保険医療機関の指定は、どの順で出しますか」 | 開業日から逆算した順序が、その場で出てくる | |
| 「医療法人化やMS法人は、どの段階で考えますか」 | 所得水準や家族構成など、判断に使う材料が返ってくる | |
| 「開業前の確定申告書は見ますか」 | 見る、と即答する。理由(融資・消費税・青色申告)が添えられる |
表5 医療に詳しい税理士を見分ける5つの質問。米山氏の挙げた3つの反応(数字・事業計画・キーワード)を、先生が聞ける形にした。
見分け方が分かれば、あとは行くだけである。
明日、決める一点は直近の確定申告書を持って、相談に行く日
用意するのは、確定申告書と保有資産の一覧
本記事で扱ったことは、いずれも確定申告書から始まる。融資の可否も、消費税の判定も、青色申告の期限も、先生の過去の申告の中に答えがある。だから明日決めるのは、直近の確定申告書を持って税理士に相談に行く日である。
持っていくものは2つでよい。直近3年分の確定申告書の控え、そして保有している資産と借入の一覧である。資産の一覧には、投資用不動産の購入価格と残債、おおよその市場価格を書いておく。この2つがあれば、確定申告書と保有資産の点検は初回でできる。
「まだ決めていない」と伝えてよい
開業するかどうか決めていない段階で相談してよいのか、と迷う先生もいる。米山氏の答えは、決めていない段階でよい、である。「2年後くらいかな」という段階が、相談の線だ。米山氏の事務所では顧問契約を開業後に始めているが、相談料や契約条件は事務所ごとに異なるため、予約時に確かめておきたい。
決めていない段階で相談すると、決める材料が増える。エリアによる売上の立て方の違い、借入の規模と返済の見通し、区分マンションを売るかどうか。決めた後に知ると選択肢が狭いことが、決める前なら選べる。本記事の副題「決める前の相談で広がる選択肢」は、その意味である。
連載のこれから
本連載「税理士と決める、クリニックの節目」は全4回で、開業のあとに来る節目を順に扱う。Vol.2は医療法人化(何を見て決めるか)、Vol.3は事業承継・M&A(早めに整えておきたいこと)、Vol.4は月次経営(先生と税理士で「順調」の中身をそろえる)である。Vol.3とVol.4は準備中で、公開後に本ページからつなぐ。
開業は、税理士との付き合いの始まりであって、終わりではない。開業前に相談した税理士が、初年度の決算を越えて、法人化や承継まで一緒に見る。その最初の一歩が、確定申告書を持って行く日である。
開業前に確かめる8項目
- 「そろそろ開業かな」と思った段階で、税理士に相談する日を決めた
- 直近3年分の確定申告書の控えを、税理士に見せた
- 投資用不動産の購入価格・残債・市場価格を一覧にし、売却の要否を税理士と確認した
- 不動産所得がある場合、青色申告承認申請書の期限が3月15日になることを確認した
- 事業計画で、単月黒字に必要な月の売上と、据置終了後の返済の原資を自分で埋めた
- 公庫と民間の順番を、自院の地域・診療科・自己資金の条件で税理士と決めた
- 医療機器ごとに、購入かリースかを、買い替えの時期と金利の型で分けた
- 開業の2年前・前年に不動産の売却や事業の売上がなかったかを、税理士に伝えた
よくある質問
クリニック開業の税理士相談は、いつからがよいですか?
米山氏は、開業の1〜2年前、「そろそろ開業かな」と思った段階を勧めている。米山氏の事務所では顧問契約の開始を開業後に置き、それまでに融資の審査に出す確定申告書や保有資産を確認する。相談料や契約の開始時期は事務所によって異なり、時期も個人の資産状況で前後する。
開業前に投資用の区分マンションを持っていると、融資に不利になりますか?
米山氏の支援先では、売却してからでないと融資しないとする金融機関があったという。売却額で残債を返せる物件なら整理しやすい一方、購入時の価格が市場価格を上回っていると借金が残り、事業の融資が難しくなることがある。評価は金融機関ごとに異なるため、残債と市場価格を申し込み前に確かめたい。
開業前の確定申告では、何を見られますか?
給与水準に対する貯蓄の水準、不動産所得の有無と内容、借入の状況である。米山氏は、不動産を持っていない先生にも給与の確定申告書を見せてもらい、問題がなければその旨を伝え、問題があれば早く直す、という進め方をしている。
日本政策金融公庫と民間の銀行、どちらに先に申し込むべきですか?
米山氏は、民間を先に使い、公庫の選択肢を将来に残す組み方を採っている。ただし、公庫が追加融資を保証するわけではない。地域の金融機関、借入額、担保・保証、利用できる制度によって最適な順番は変わるため、自院の条件で比較したい。
医療機器は、リースと購入のどちらがよいですか?
米山氏は、融資枠で組めるなら借入で購入、枠を超えるならリース、リースにするのは5年ほどで買い替えるもの、という使い分けを示している。金利が上昇している局面では固定のリースが選択肢に上がってきており、契約の直前に条件を比べ直すことを勧めている。
開業した年から消費税を納めることはありますか?
ある。個人事業の消費税は前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる。投資用マンションの建物部分の売却は課税売上に含まれるので注意が必要だ。判定は個別の事情で異なるため、税理士に確認する(2026年9月時点の制度)。
青色申告承認申請書は、いつまでに出しますか?
その年の1月16日以後に新たに事業を始めた場合は、開始日から2か月以内である。ただし、不動産所得などですでに事業を営んでいる人は、青色にしたい年の3月15日が期限になる。期限を過ぎるとその年は白色申告となり、赤字を翌年以降に繰り越せない(2026年9月時点の制度)。
医療に詳しい税理士は、どう見分けますか?
米山氏は3つの反応を挙げている。自分の診療科を伝えたときに原価率・人件費率・広告費率などの数字が出てくるか、事業計画を立ててくれるか、保健所の開設届のタイミング・医療法人・一般社団法人・MS法人といったキーワードについてきてくれるか、である。
(監修/税理士法人シリウス 医療事業 代表社員・税理士 米山 憲子)
