「一度入ったことがある」が、受診のきっかけに。内覧会でつくる、地域との接点
開業前の内覧会で、地域の人に何を伝えるか。院内や設備を見てもらう機会としてだけでなく、相談や予約につなげる場として、その役割を考える院長が増えているという。内覧会を専門に手がける株式会社メディカルアドバンス代表・本多裕樹氏に、現場で感じる変化と、医科や自費診療で活かすための視点を聞いた。
- 内覧会を、地域の人に診療内容や院の雰囲気を知ってもらう機会として活かす。
- 来場者数に加え、相談・予約・実際の来院までを見据えて企画する。
- 開業時や増設時に、自費診療も含めた院の選択肢をどう伝えるか。
一度入ったことがある。それが受診のきっかけになる
メディカルアドバンスの出発点は、「予防について、もっと多くの人に知ってほしい」という思いだった。創業者の本多隆子氏は、歯科クリニックで患者の相談に関わるなかで、歯周病の予防に関する情報が十分に届いていないと感じたという。
同社は2004年に設立し、2008年に内覧会事業を確立した。現在の代表・本多裕樹氏も、大学時代から内覧会の運営に携わってきた一人だ。取材時点で、開催実績は累計5,000件を超え、年間約300件に上ると話す。
まず、御社が考える内覧会の役割から教えてください。
内覧会といっても、取引先を招く会から、地域の方に広く来ていただく会まで、やり方はいろいろあります。私たちが大切にしているのは、地域の方々にクリニックを知っていただくことです。そのために、どうすれば足を運んでもらえるかを考えてきました。
一度入ったことがある場所は、次に行きやすくなりますよね。飲食店でも、初めてのお店に入るときと、一度行ったことのあるお店では気持ちが違うと思います。クリニックも同じで、中の雰囲気が分かり、先生やスタッフと話したことがあれば、受診するときの心理的なハードルが下がります。
ホームページや看板も大切ですが、今は受診の必要を感じていない方には、なかなか見てもらえません。内覧会なら、散歩や買い物の途中に声をかけて、クリニックを知っていただくきっかけをつくれます。
場所や設備を見てもらうだけでなく、どのようなときに相談できるのかを知ってもらう場でもあるのですね。
そうですね。例えば脳神経外科は、普段あまり接点がない方にとって、何を相談できる診療科なのかが分かりにくいことがあります。内覧会で話を聞いて初めて、「こういうときにも相談していいんだ」と知る方がいるわけです。
歯科では、歯周病や予防についてお伝えする資料も用意してきました。クリニックの紹介と一緒に、ご自身の健康について考えていただく。その両方を大事にしています。
本多氏は、学生時代の夏休みも内覧会の現場で過ごすことが多かったという。暑い日に声をかけ続けていると、近隣の人が保冷剤をタオルに包んで差し入れてくれたこともあった。院長だけでなく、来場者からも感謝される。その経験が、この仕事を続ける原動力になっている。
来場者数に加え、「予約につながったか」が問われる
地域との接点をつくるという役割は変わらない。一方で、院長が内覧会に求める成果には変化がある。本多氏が実感しているのは、当日のにぎわいだけでなく、その後の診療につながるかを重視する院長が増えていることだ。
以前と比べて、クリニック側の要望はどのように変わってきましたか。
地域の方に広く来場いただく集客力は、私たちの強みです。最近は、それに加えて、来場された方の相談や予約につなげることを重視される先生も増えています。開業後の診療にどうつながるかまで、考えておられるのだと思います。
そのため、私たちも予約のご案内に関する研修を受けたスタッフを配置したり、歯科であれば歯科衛生士に入ってもらったりしています。東京オフィスが担当する内覧会では、予約が100件を超える例も増えてきました。
院長ご自身が、開業や経営について勉強される機会も増えていると感じます。ただ人を集めるだけでなく、その先の診療をどう立ち上げるか。そこまで求められるようになってきていますね。
予約システムなどが整って、予約の状況や、その先の売上も見えやすくなってきました。そうした変化も、内覧会の成果を具体的に捉える後押しになっていそうです。
おっしゃるとおりだと思います。以前より、ご自身で情報を集めて判断される先生が増えています。私たちも、その期待に応えられるように、運営の精度を上げていく必要があります。
ただし、予約が入った時点で売上が確定するわけではない。予約後に実際の来院があったか、診療や継続的な通院にどうつながったかは、分けて確認する必要がある。本多氏が紹介した件数も同社の事例であり、すべての診療科や立地に共通する目安ではない。
内覧会を検討する際は、来場者数、相談件数、予約件数、実際の来院数を追えるようにしておくと、開催後の振り返りにも役立つ。予約を取りやすい診療科と、必要なときに思い出してもらうことが大切な診療科では、見るべき成果も変わってくる。

足を止める工夫と、院を知ってもらう工夫
関心のある人が自ら訪れるホームページとは異なり、内覧会では、その場を通りかかった人にも接点をつくれる。そこで必要になるのが、足を止めてもらうきっかけと、院内まで自然に案内する流れだ。
声のかけ方やイベントなど、現場ではどのような工夫をされていますか。
体験型のイベントを同時に開催することがあります。予算が合えば、生きた魚などに触れられるタッチングプールも人気です。子どもたちが集まり、親御さんも一緒に来てくださる。おじいちゃん、おばあちゃんも興味を持ってのぞいてくださるので、幅広い世代との接点になります。
ガラポンや輪投げのような催しでも、人が集まっていると、「何をやっているんだろう」と立ち寄る方がいます。スタッフも、風船で剣や動物をつくるバルーンアートは、ほとんど全員ができます。私もできますよ。
お子さんと一緒に来た親御さんが、院内を見たり、先生と話したりして、「ここは良さそう」と感じてくださる。その体験が、家族や身近な方にクリニックを知ってもらうきっかけにもなります。
一見、診療とは関係のないイベントでも、地域の人に入ってもらう入口になるのですね。
そうです。ただ、イベントだけで終わってしまうと、お祭りをしただけになってしまいます。クリニックの中を体験してもらうことや、予防について知ってもらうことに、きちんと結びつけなければいけません。
楽しかったという印象に加えて、「どんな先生がいるのか」「どんな診療をしているのか」が伝わるようにする。そこまで含めて、内覧会を企画しています。
呼び込みやイベントは、来場のきっかけをつくる役割を担う。一方、院長が大切にしている診療方針や、スタッフの雰囲気は、本人たちとのやり取りを通じて伝わる。外部の運営会社に任せる部分と、院内のメンバーが担う部分を整理しておくことも、内覧会の準備の一つになる。
自費診療も、開業時から知ってもらう
内覧会の変化は、クリニック側だけに起きているわけではない。本多氏は、来場者の質問からも、予防や自費診療への関心の高まりを感じているという。
地域の方々から寄せられる相談には、どのような変化がありますか。
コロナ禍を経て、予防に関心を持つ方が増えた印象があります。歯科では、小児矯正やマウスピース矯正を行っているかといった、自費診療についての質問もあります。3Dスキャナーなどの設備を初めて見て、興味を持たれる方もいらっしゃいますね。
以前よりも、費用をかけてでも自分に合った治療を選びたいという関心が、身近になっていると感じます。ですから、自費診療を行うのであれば、開業前からどうご案内するかを考えておくことは大切だと思います。
自費診療が中心のクリニックでも、内覧会を手がけているのでしょうか。
はい。矯正専門の歯科などでも行っています。ある院では、内覧会の期間中に矯正に関する予約が40件ほど入ったことがありました。美容皮膚科の内覧会をお手伝いした経験もあります。
もちろん、立地によって難しさは変わります。建物の2階以上にある院は、1階の院に比べると、通りがかった人に入っていただくのが難しい。それでも、中に入らなければ雰囲気が分からない場所だからこそ、実際に来てもらう機会をつくる意味は大きいと考えています。
自費メニューは、名前を並べただけでは、どのような悩みを相談できるのかが伝わりにくい。院の中で話を聞ける機会は、来場者が自分の関心や疑問を言葉にする入口にもなる。検討中の人が相談しやすいように、対応できる内容や費用の説明を用意しておきたい。
一方、取材で紹介された40件は一つの院の予約事例であり、治療契約や売上の確定を意味するものとして扱うことはできない。自費診療についても、相談、予約、来院、治療の選択というそれぞれの段階で、来場者の意思を確かめながら進めることが前提となる。
医科では、診療科と立地に合った成果を考える
同社の内覧会は歯科が中心だが、医科でも年間約30件を手がけているという。歯科と医科では、内覧会の位置づけや、成果の見え方にも違いがある。
医科では、歯科ほど内覧会が広がっていない背景を、どう見ていますか。
歯科では、内覧会をすることがかなり定着していて、どの会社に依頼するかを考える段階にあります。定期的なメンテナンスやクリーニングなど、予約につなげやすいことも一つの理由だと思います。
医科は、診療科によってその場で予約を取ることが難しく、費用対効果が見えにくい面があります。また、開業支援に携わる方も、コンサルタント、物件を紹介する会社、会計事務所、電子カルテの会社など、さまざまです。内覧会の考え方やノウハウが、広く共有されにくい部分もあるのかもしれません。
身内や取引先を招く会として考えられているケースもありますが、地域の方に向けた広報の機会として活かせる余地は、まだ大きいと感じています。
自分たちで開催する場合と、専門会社に依頼する場合では、どのような違いがありますか。
内覧会自体は、自分たちで行うこともできます。ただ、地域の方に声をかけて来場につなげる仕事には、慣れや経験が必要です。チラシを配っても、反応をもらえずに通り過ぎられることは多いので、慣れていないスタッフには負担になることがあります。
以前、自分たちで内覧会を行ったものの、開業後の患者数が伸びず、改めてご依頼をいただいた院がありました。開業初月のレセプトが12件、翌月が21件だったと伺い、3か月目に私たちがお手伝いしました。その月から3桁になり、その後も続いたと聞いています。
その先生がつらかったとおっしゃっていたのは、患者さんが少ない間も、人件費などの支出が続き、運転資金が減っていくことでした。開業時にどのように地域の方と接点をつくるかは、経営の立ち上がりにも関わるのだと思います。
この経過は、本多氏が紹介した一院の事例だ。開業からの時間経過や他の広報施策などもあるため、内覧会だけによる効果とは断定できない。それでも、開催費用とともに、開業直後の認知づくりや院内スタッフの役割分担を考える材料にはなる。
費用について、本多氏は取材で150万円〜200万円を超える規模の例を挙げた。公式サイトの医科向け基本料金は110万円から(税別)で、交通費・宿泊費、チラシ印刷・配布等の費用は別途となっている。企画によって総額が変わるため、基本料金だけでなく、必要な準備と当日の運営を含めて確認したい。
また、本多氏は、診療内容によって内覧会との相性が異なるとも話している。相談していることを周囲に知られたくない人もいる。集客の規模だけを考えず、声のかけ方や相談の場所を含め、自院の患者層に合った形を選ぶことが大切だ。
内覧会の後も、地域との関係は続いていく
今後、御社として力を入れていきたいことを教えてください。
正直に言うと、これまでは内覧会を開催して、その後は継続的に関わる機会が少ないケースもありました。先生の様子は、紹介してくださった企業や現場スタッフを通じて聞くことはあっても、会社として経営まで支えるところには、十分に踏み込めていなかったと思います。
今は、経営サポートのためのツールづくりにも取り組んでいます。診療の状況や売上、自費診療の比率などを把握し、次にどのような支援が必要なのかを考えられるようにしたい。まだ試行錯誤の段階ですが、内覧会をスタートとして、開業後も支えていける会社を目指しています。
既存のクリニックが、新しい診療内容を地域の方に伝える場としても、こうした機会をつくれそうですね。
増設のタイミングで開催することはあります。通ってくださっている方への感謝を伝えながら、新しく来る方にも「こんなことをしていますよ」と知っていただく。開業時の内覧会とは少し違う、感謝のイベントのような形ですね。
今回の取材で私が強く感じたのは、内覧会には、クリニックを地域の人に直接知ってもらう機会として、まだ活かせる余地があるということだ。設備や診療メニューを見せるだけでなく、院長やスタッフと話し、「ここなら相談できそう」と感じてもらう。その体験は、開業時に限らず、新しい自費診療を始める場面でも大切になる。
そのためには、まず誰に来てほしいのか、何を知って帰ってほしいのかを決めたい。予約につなげることを重視するのか、診療内容を知ってもらうことから始めるのか。その目的が定まれば、イベントの内容も、スタッフの役割も、開催後に確かめることも具体的になる。
地域の人と顔を合わせ、会話をする機会を、診療の立ち上がりにつなげていく。本多氏の話は、クリニックが地域との接点をどうつくるかを、改めて考えるきっかけになった。
取材・参考資料
- 本多裕樹氏へのインタビュー(2026年10月16日)。取材・文:髙山岳大。開催実績・予約件数・個別事例は、取材時の説明に基づく。
- 株式会社メディカルアドバンス「会社概要・沿革・アクセス」
- 同社「基本料金とオプション(医科向け)」
- 同社「代表プロフィール:Hiroki Honda」
公式情報の確認日:2026年10月19日。料金・サービス内容は変更される場合があります。
〒141-0031 東京都品川区西五反田1丁目24-4 タキゲンビル403(本社)。事務所:名古屋・大阪・福岡
2004年2月設立。医科・歯科の内覧会プロデュース、クリニック研修、WEB内覧会、開業物件紹介、イベント企画制作
https://www.medical-advance.com/
