生成AIに引用されるクリニックと、されないクリニック。分けているのは何か
AIO、LLMO、そして「SEOはもう終わり」という言葉。何に手を入れるべきか、判断しにくい時期が続いている。だが、整形外科専門医として臨床に立ったのち、AIエンジニアと医療AIの会社を立ち上げたDr.ひろひろ氏の見方は違った。「SEOは終わっていません。むしろ、いまクリニックは有利な側にいます」。その理由は、AIが何を見ているかにある。(取材・文/ドカリー編集部)
「SEOはもう終わり」と言われるがGoogle自身は、そう言っていない
患者が情報を探す入口が変わりつつある。検索窓に言葉を入れて上から順に見ていくのではなく、生成AIに聞いて、返ってきた答えをそのまま受け取る。この変化に合わせて、AIO(AI Optimization)、LLMO(LLM Optimization)という言葉も出てきた。
同時に出てきたのが「SEOはもう終わりだ」という言説である。これから自院のサイトに手を入れようという院長にとっては、いちばん困る種類の情報だ。終わったものに投資はしたくない。かといって、何が新しいのかも分からない。
ひろひろ氏は、クリニック向けのSEOサービスを提供する会社の共同創業者である。同時に、クリニック以外の業種のマーケティング支援も手がけている。その立場から見た答えは、はっきりしていた。
Dr.ひろひろ氏「『SEOはオワコン』という話は、たびたび耳にします。ただ、Google自身がSEOは大切だと発表しています。それに、AIがコンテンツを作ったかどうかより、アウトプットが良質かどうかのほうが重要です」(ひろひろ氏、以下同)
AIOはSEOを置き換えるものではなく包み込む関係にある
ひろひろ氏の整理では、AIOとSEOは入れ替わる関係にない。AIOのほうが大きく、その中にSEOが含まれる。
Dr.ひろひろ氏「AIにちゃんとピックアップされるようにしたいのであれば、やはりSEOというところが基本になってくるのかな、と今は思っています」
この違いは、投資の判断を分ける。「SEOは終わった、これからはAIO」という前提に立てば、いまサイトに手を入れることは無駄に見える。「AIOの土台がSEO」という前提に立てば、やることの中身は大きく変わらず、評価される軸が動いただけということになる。
「SEOをやめてAIOに乗り換える」という選択肢は、そもそも存在しない。土台は同じで、上に乗る評価軸が変わったと考えるほうが、実務では迷いが減る。
誰でも記事を量産できるようになり「質」では差がつかなくなった
では、この1年半ほどで何が変わったのか。ひろひろ氏が挙げたのは、書き手の側の変化だった。
Dr.ひろひろ氏「医師でなくても、AIでコンテンツを量産できるようになったわけです。それっぽいことは、いっぱい書けるようになった」
誰でもそれなりの記事を出せるようになった結果、記事の「質」そのものでは差分が出にくくなった。かつては、丁寧に書かれた記事とそうでない記事のあいだに、はっきりした差があった。その差が、いま平らになりつつある。
| これまで | いま | |
|---|---|---|
| 記事を書ける人 | 書ける人が限られていた | 誰でも量産できる |
| 記事の質の差 | はっきり差がついた | 差分が出にくくなった |
| 評価の決め手 | コンテンツの中身 | 誰が作ったか |
| SEOの位置づけ | 検索順位のための施策 | AIに拾われるための土台 |
※ Dr.ひろひろ氏への取材(2026年9月)をもとに、ドカリー編集部が構成した。
質で差がつかないなら、AIは何を手がかりに、拾う情報を選ぶのか。
質で差がつかないならAIは「誰が書いたか」を見る
この問いへの答えは、ひとことだった。
Dr.ひろひろ氏「誰が作ったか、を見ているんです。クリニックのドメインの評価と、監修を誰がしているか。そこをものすごく見ている」
実例として挙がったのは、あるクリニックの記事だった。記事の末尾に、監修医の顔写真とプロフィールを置いた。本文には手を入れていない。
Dr.ひろひろ氏「その部分を変えただけで、検索の1ページ目に来たりするんですよね。だからもう、権威性に回帰しているなと自分は思っています」
※ 取材時に紹介された個別の事例である。対象の記事数・期間・比較の起点は確認できていない。同じ施策で同じ結果が得られることを示すものではなく、成果を保証するものでもない。
ここでいう「監修を置く」は、実際にその医師が内容を確認し、責任を持つという前提の話である。監修の実態がないまま名前と写真だけを載せることは、読者に対しても、監修者本人に対しても筋が通らない。
また、自院サイトに載せられる医師の経歴・資格の書き方には、医療広告ガイドライン上の決まりがある。プロフィール欄の記載も広告の一部として扱われる。
ドメインと医師を院内に持つクリニックは、有利な側にいる
ひろひろ氏の会社は、クリニック以外の領域のマーケティング支援も手がけている。その比較のなかで見ると、医療機関の状況は明らかに違うという。
Dr.ひろひろ氏「実測ベースの話として、クリニックの領域だけ、ほかと比べて明らかにやりやすいです。ポジショントークにはなってしまうんですけど」
理由は、前の章の裏返しである。AIが「誰が書いたか」を見るようになったとき、クリニックは医療機関としてのドメインを持ち、医師という監修者を院内に持っている。これから権威性を用意しなければならない業種とは、スタート地点が違う。
言い換えれば、すでに持っているものを使い切れていないクリニックが多い。院内には毎日、診療という一次情報が積み上がっている。それを誰が書いたか分かる形でWeb上に置けているかどうか。差がつくのは、そこだ。
いま必要なのは、新しく権威性をつくることではない。自院がすでに持っている権威性を、AIが読み取れる形にすることである。記事の署名、監修者のプロフィール、その医師が誰なのか分かるページ。着手する順番は、そこからになる。
媒体の優先順位ではなく「名前を、Web上で回す」
ホームページ、note、Instagram、TikTok、X。限られた時間のなかで、どこにどれだけ力を入れるべきか。この問いへの答えは、媒体の優先順位ではなかった。
Dr.ひろひろ氏「いかに自分の名前を、Web上で回すか。Xで検索しても出てくる、ホームページでも出てくる、InstagramでもTikTokでも出てくる。そういう状態をつくることがポイントなんじゃないかな、と」
ひろひろ氏自身が、これを実行している。本人の名前で検索すると、X、ポッドキャスト、書籍の監修、コミュニティと、複数の場所に着地する。「この名前は誰なのか」を、AIが複数の経路から確かめられる状態だ。前章の「誰が書いたか」と、ここでつながる。
「全部やるということですね」と聞き返すと、「そうですね」と返ってきた。ただ、そこで話は終わらなかった。実行の手立てとして挙がったのが、AIを使うか、スタッフに任せるか、という話である。
Dr.ひろひろ氏「AIを活用して、マルチな媒体で自分の名前をどんどん出していって、回遊させていくのがいいのかなと思いますね」
発信の量を増やすとき、いちばん起きやすい事故が表現の踏み外しである。ビフォーアフター写真、患者の声、「必ず」「No.1」といった断定・最上級。媒体が増えるほど、確認の目が届かない場所が生まれる。量を増やす前に、公開までのチェックの手順を決めておきたい。
記事を1本増やす前に「誰が書いたか」を確かめる
この記事を読んだ院長が、明日から一つだけ手をつけるとしたら何か。取材の内容から、編集部として整理する。
自院のサイトの記事を開いて、「これは誰が書いて、誰が確かめたのか」が読み取れるか確かめてほしい。署名がない。監修者の欄がない。名前はあるが、その人が誰なのか分かるページがない。そのいずれかに当てはまるなら、記事を1本増やすより先に、そこを埋めるほうが早い。
費用もほとんどかからない。必要なのは、その医師のプロフィールを整理し、記事に紐づけ、その医師について書かれたページを1枚つくることだけである。すでに院内にある権威性を、読み取れる形にする。ひろひろ氏の話は、一貫してこの一点を指していた。
Dr.ひろひろ氏「AIにちゃんとピックアップされるようにしたいのであれば、やはりSEOが基本になってくる。そのうえで、AIが見ているのは誰が作ったかです」
では、その「AIを使う」とは、実際にどこまでのことを指すのか。次回は、ひろひろ氏がAIエージェントを業務にどう組み込んでいるかを聞く。導入したのに使わなくなる人と、続く人。その差はどこにあるのか。
