開業は、医師のキャリアのなかで最も大きな決断のひとつです。診療の内容も、働き方も、これから何十年の人生も、そこで決まっていきます。
それだけの決断なのに、判断するための材料が驚くほど少ない。
ドカリーで新しい連載特集「開業のリアル」をはじめます。第1回の取材に伺う前に、なぜこの特集をやるのかを書いておきたいと思います。
情報が閉じていると、情報そのものが商品になる
自費診療の世界は、情報が閉じています。
保険診療のように、点数表があって、算定のルールが公開されていて、誰でも同じ前提から出発できる、という世界ではありません。何にいくらかかるのか。どの業者に頼むと何が起きるのか。オープンしてから何が待っているのか。そのほとんどが、経験した人の中にだけ残ります。
情報が閉じていると、何が起きるか。
情報そのものが、商品になります。
本来、開業支援のコンサルタントが提供すべきものは、はっきりしています。開業の成功から逆算したときに必要になる、経験値と、人脈と、医師本人が費やす必要のない時間。この3つです。
どれも、お金を払う価値のあるものです。特に経験値は、医師が自力で手に入れようとすれば、一度きりの開業を何度も経験するしかありません。それは不可能です。だからこそ、すでに何十件と見てきた人の目が意味を持つ。人脈も同じで、いい業者や、いい人材に、最短でたどり着ける経路には値段がつきます。時間もそうです。医師にとって最も高価な資産は、診療している時間です。
そして、この3つを本当に提供するには、支援する側に圧倒的な経験値が要ります。
ところが実際には、そうとは言えないケースが少なくありません。閉鎖的であることを逆手に取り、情報を持っているという一点だけで課金する。たいした経験もないまま、法外な費用を取る。そういう会社や人が、この業界には確かに存在します。
医師の側からは、それを見分ける手立てがほとんどありません。比べる相手がいないからです。開業は一度きりで、隣の先生がいくら払ったかは分からない。だから、提示された金額が高いのか妥当なのかを判断できないまま、契約することになる。
だから、ドカリーをつくっています
私たちがドカリーで目指しているのは、開業コンサルタントがいなくても、自分の力で開業するために必要な情報が、ひととおりそろっている状態です。
物件も、資金も、内装も、機器も、人も、集患も。ばらばらに閉じていた情報を一か所に集めて、誰でも同じ前提から出発できるようにする。閉じているから商品になっていたものを、開いてしまう。それが、このサービスでやろうとしていることです。
ただし、「コンサルタントは要らない」と言いたいわけではありません。そこは、はっきり書いておきたいと思います。
先ほど挙げた3つ——経験値、人脈、時間——は、情報を並べただけでは埋まりません。信頼できる人に任せることで、オープンしてからの数年がまるごと変わることは、現実にあります。私自身、そういう支援の現場を見てきました。
私が問題だと思っているのは、コンサルタントの存在ではなく、医師の側に選ぶ材料がないことです。
三つの道は、どれも正解になりうる
開業には、少なくとも三つの道があると思っています。
どれも正解です。
正解でないのは、判断材料がないまま、なんとなく決めてしまうことだけです。
この特集でやること
そこで、この特集です。
実際に開業された先生に、私が直接お話を伺いに行きます。うまくいったことだけでなく、想定と違ったこと、つまずいたことも伺います。そして可能なかぎり、その先生を支援した専門家にも同席していただき、支援する側の仕事のリアル——何を引き受け、何を引き受けなかったのか、どこで先生の判断を待ったのか——を、同じ場で語っていただきます。
頼んだ側と、支えた側。両方の言葉が並んで初めて、読む人は「自分の場合はどうするか」を考えられる。片方だけでは、成功談か営業資料のどちらかになってしまいます。
そして、自分で全部やった先生にも伺います。ホームページも、内装の打ち合わせも、集客も、自分で手を動かした先生が実際にいます。何ができて、何がしんどかったのか。同じことを再現するなら、どこに注意すればいいのか。
すべての回で、私が現地のクリニックへ伺います。空間も、動線も、うまくいかなかった部分も、その場で見せていただく。写真と映像でお届けするのは、文字だけでは伝わらないものがあるからです。
読んだ先生に、持ち帰っていただきたいこと
この特集を読んだ先生が、自分の言葉で「ここは任せる、ここは自分でやる」と言えるようになること。それがゴールです。
答えを渡すつもりはありません。渡したいのは、判断材料です。
次回から、実際の先生方の歩みをお届けします。