長引く痛みに、『炎症』というもう一つの視点を循環器内科医が、運動器カテーテル治療を選んだ理由
オクノクリニック博多駅前の院長、新谷嘉章氏は、循環器内科医として動脈硬化疾患の患者へのカテーテル治療に長く携わってきた。2026年4月からは同院を運営し、長引く痛みに対する運動器カテーテル治療を自費診療で提供している。保険診療を中心にしてきた医師が、なぜ新しい治療を診療に加えたのか。患者にどう説明し、クリニックとしてどう継続していくのか。美容看護師の相良萌が聞いた。
本記事は、新谷氏に書面でいただいた回答と、2026年10月13日に行ったオンラインでの追加取材をもとに構成しています。追加取材での問いは「編集部」と表記しています。掲載にあたり、取材先からの金銭の提供はありません。
「我々の治療の視点は『炎症』です」
同院が「モヤモヤ血管」と呼ぶのは、慢性的な炎症などを背景に、本来そこに必要のない異常な血管が新しく増えた状態を指す。同院の説明では、炎症が長く続くと血管とともに神経も増えることがあり、慢性的な痛みの原因の一つになると考えられている。
痛みが長期間続く、レントゲンやMRIでは大きな異常が見つからない、治療を受けてもなかなか改善しない。こうした場合に、この血管の関与を検討するという。肩こりや五十肩、膝や足首の慢性痛、手指や肘の痛み、スポーツ障害など、同院には幅広い相談が寄せられている。
- 診療の区分
- 自費診療(保険適用外)。
診察費用:初診 税込7,700円(税抜7,000円)、再診 税込5,500円(税抜5,000円) - 運動器カテーテル治療
- 直径0.6mmの細いチューブを用いるカテーテル治療。局所麻酔で行い、当日に帰宅できると同院は説明している。
費用の例:五十肩(片側)税込368,500円(税抜335,000円)。費用は部位により異なる。治療後に利用する回復室は、別途 税込5,500円(税抜5,000円)
同院が挙げるリスク:カテーテル挿入部の内出血(約4%)、造影剤による蕁麻疹などのアレルギー反応(約2%)、治療部位の一時的な痛みの増加(約5%) - 動注治療
- 手首または足首の動脈に、点滴で用いる細いチューブで直接注入する治療。1〜2分ほど。
費用の例:ヘバーデン結節(片手)税込33,000円(税抜30,000円)。費用は部位により異なる
同院が挙げるリスク:内出血・疼痛・アレルギー反応
出典:オクノクリニック公式サイト(2026年10月5日閲覧)
https://okuno-y-clinic.com/menu
https://okuno-y-clinic.com/abnormal_neovessels
こうした痛みを抱えて来院する人を、新谷氏はどう診ているのか。
これまでの治療では、なかなか改善につながらなかった患者さんに出会うことはありますか。
当院には、さまざまな病院で治療を受けても、なかなか痛みが改善しないという方が多くいらっしゃいます。ご自身でインターネットなどを使って情報を探し、当院にたどり着いたというお話もよく伺います。
そのような患者さんに対して、どのようなことを考えて治療にあたっていますか。
我々の治療の視点は『炎症』です。レントゲンでは異常が見つからず、MRIでも『何もない』と言われてきた方が多くいらっしゃいます。炎症という視点から捉えることで、疾患の状況によっては改善につながることもあります。その観点で対応できるのか、それとも別の方法が良いのかを考えながら診察しています。
「より選択肢を考えられるようになりました」
新谷氏は2005年に臨床研修医となり、新古賀病院や上尾中央総合病院などで、カテーテル治療や末梢血管治療に携わってきた。循環器診療に携わってきた新谷氏が、なぜ痛みの治療に関心を持ったのか。
先生がこの治療を始めたきっかけを、これまでのご経験とあわせて聞かせてください。
私はもともと循環器内科・心臓血管内科の医師で、今もその診療を続けています。心筋梗塞や狭心症、壊疽などを来す足の血管の病気といった動脈硬化疾患の患者さんへのカテーテル治療を主戦場に、医療を提供してきました。
ただ、良くなる方もいれば、残念ながらなかなか改善しない方もいます。自分の力不足によって、改善の機会を逃すことはしたくないと思っていました。私は、自分が治療しても改善しないのならば現時点では治療が難しいだろう、と周囲から認識されるほどの実力と実績を持つ、いわば『最後の砦』となる医師になろう、と常々思っていました。そのために、比較的早い段階から全国的な学会活動や海外での発表に取り組み、『ライブオペ』で自分のカテーテル治療について学会の場で討議する経験もしてきました。
そうした診療を10年ほど続ける中で、疑問も出てきました。『医療費が高騰している中で、このような高額な治療は本当に正しいものなのか』『国民皆保険制度のもとでは議論されにくいけれど、費用に見合った治療を提供できているのか』『平均寿命は延びているのだろうが、健康寿命はどうなのか。患者さんの幸せにつながっているのか』。その疑問の答えも探すため、医療経済や公衆衛生を学ぶために社会人大学院にも通い、保険診療の問題点を俯瞰的に考えるようにしました。そうした中で、『痛みをとって健康に生きる』という治療が新たなジャンルとして出てきて、興味を持つに至ったわけです。
「この患者さんに、もう一つ選択肢があれば」と感じた経験はありますか。
私自身、保険診療を中心に行ってきた中では、痛みの相談に対して『痛み止めを出しておきますね』『湿布ですね』という対応になることが多くありました。そして、対応に困れば整形外科に紹介する。ただ、その先で患者さんの痛みは解決していたのか、という視点が欠けていたと思います。今は、実際に痛みを抱えた患者さんを治療する中で、新たな選択肢を知り、より選択肢を考えられるようになりました。
「我々が行っているのは、そのような『間』の治療です」
一つの治療で、すべての患者さんが良くなるわけではないと思います。だからこそ、患者さんの状態や希望に合わせて、複数の選択肢から考え、提案できることが大切だと思うのですが、先生はどう考えていますか。
その通りです。一般内科には外科があり、循環器内科にも心臓外科があります。狭心症に、カテーテル治療とバイパス治療があるように。
ただ、たとえば整形外科には、整形内科というものはありません。我々が行っているのは、簡単に言えば、そのような『間』の治療です。そもそも選択肢がなかったところに、新たなものを作る。もちろん、新しいことがすべて良いわけではなく、まだまだ未知の部分も多くあります。それを整理して、患者さんに提供できれば良いかなと思っています。
同院では、この新しい選択肢を自費診療として提供している。保険診療を中心にしてきた新谷氏にとって、そこに戸惑いはなかったのか。
「提供する側、受ける側に、それなりの『覚悟』が必要です」
この治療は自費診療です。保険診療を中心にされてきた先生が、自費診療という選択肢を患者さんに提案することに、最初は戸惑いや難しさはありましたか。
保険診療は、日本の素晴らしい仕組みです。ただ一方で、『保険だから正しい』と思い込んでいる風潮があります。保険診療は、保険料や公費、患者さんの自己負担によって支えられています。だからこそ、適切で効果的な治療を選ぶ必要があると思います。
一方で、新谷氏は、自費診療には否定的なイメージが向けられることもあると指摘する。この治療が始まってから約10年と捉え、一部は将来的に保険診療になるのではないかと考えている。ただし、これは新谷氏の見解であり、同院では現在、保険適用外の治療として提供している。
すべての治療が保険診療である必要はないと思います。自費診療で行うということは、提供する側、受ける側に、それなりの『覚悟』が必要です。治療を行っても、保険であれば『そこまでお金もかかった感じがないし、仕方ない』という感覚になりやすいところがあります。自費では費用の負担をより実感する分、効果がより厳しく問われます。そこに向き合う難しさはありますし、保険診療であれば、もっと広く治療を提供できるのに、という思いもあります。
自費診療を「患者さんにとっての選択肢」として提示するとき、医療者に必要なことは何だと思いますか。適応、メリットとデメリット、費用、保険診療との違いなどを説明するときに、大切にされていることを教えてください。
まず、なぜ保険診療と自費診療があるのか。その背景や歴史を医療者自身が理解し、伝える必要があります。そして、どのような状況であれば効果が期待できるのか。患者さんが費用を負担して治療を受けるかどうかを判断できるよう、治療成績を説明することも必要です。
自費診療には、受診のハードルがあります。治療を希望されても、費用の負担が理由で受けられないことがある点は、デメリットです。一方で、保険診療となり、さまざまな医療機関で行われるようになれば、この治療は手技を伴うものなので、技術力や効果の差が大きく出てくるだろうと思います。
自費診療では、治療の効果や合併症に対する責任を、より強いプレッシャーとして感じています。そのため我々のグループでは、皆が高いレベルを保てるように、会議や手技の確認を重ねながら治療を提供しています。
「本当に良いものなのかを考えながら、提供していく」
先生ご自身が新しい治療を取り入れてきた経験を踏まえて、これから新しい治療や診療の選択肢を考えている医療者に、伝えたいことはありますか。
『新しい選択肢』には、良くも悪くも未知の部分があります。既存の治療については、ある程度整理されていることも多い。ただ、その治療の対象に当てはまらない患者さんや、十分な改善に至っていない患者さんもいます。そうした患者さんにとって本当に良いものなのかを考えながら提供していく心づもりが、必要なのではないかと思います。
「限られた選手生命の中で、できる限り活躍してほしい」
新谷氏が、この治療を通じて力を入れたいと語るのが、スポーツ選手の痛みへの対応だ。10月13日の追加取材で、競技への復帰を支えたいという思いを聞いた。
スポーツ選手の復帰を手助けしたいとおっしゃっていました。どのような思いをお持ちなのでしょうか。
この治療はまだ新しく、十分に知られているとはいえません。私には、働き盛りの方々や、これから活躍する若い世代の力になりたいという思いがあります。なかでも気にかけているのが、スポーツ選手や、部活動で最後の夏を迎える学生たちです。痛みがなかなか治らず、整形外科で安静や手術を勧められる。手術を受けても、思うように痛みが取れなかったり、パフォーマンスが戻らなかったりする方もいます。
そうした状況は、あまり表には出てきません。人知れず引退したり、競技を諦めたりしている方もいるのです。選手として活躍できる時間は限られていますから、できる限り手術をせずに復帰し、その時間の中で力を発揮してほしい。この治療が、そのための選択肢になり得ると考えています。復帰を望む方を支えるとともに、こうした選択肢があることを、もっと知っていただきたいですね。
スポーツ選手への支援に力を入れるようになったきっかけはありますか。
何か一つの出来事がきっかけだったわけではありません。この治療を知ったのは10年弱前ですが、これまでとは違う視点の治療で、さまざまな応用の可能性を感じました。その後、患者さんと接するなかで、スポーツに取り組む方々にも、もっと役立てられるのではないかという思いが強くなっていきました。
マッサージや鍼、整体などをいろいろ試しても改善せず、最終的に手術を勧められる。手術を受けても痛みが残っているというプロの選手もいます。そうした方々に提示できる選択肢を、少しでも増やしたいと思っています。
「医療者のほうが、新しい領域を受け入れる土壌が狭い」
患者さんは、どのようにしてこの治療にたどり着くのでしょうか。
ご自身で調べて来られる方が多いですね。むしろ、医療者のほうが新しい領域を受け入れる土壌が狭いのではないか、と感じることがあります。治療が十分に知られていないために、周囲の方や医師から受診を止められ、迷われる患者さんもいます。新しい治療が広まっていく過程では、こうした難しさがあるのだと思います。
認知を広げるために、どのような取り組みをされていますか。
この治療が関わるのは、整形外科の領域だけではありません。頭痛やこり、腹痛など、症状によっては泌尿器科や婦人科、脳神経の領域にもまたがります。一つの診療科に収まらないため、複数の学会で理解を広げていく必要があり、道のりはまだ長いと感じています。
YouTubeやSNSでの情報発信は本部が行っていますが、私たち医師は、学術活動を軸に取り組んでいく必要があります。新しい治療には反論もありますし、医療として確立していくまでには時間がかかります。自費診療であることも、受け入れられるうえでのハードルの一つだと感じています。
「決断と展開の早いクリニックが向いている」
新谷氏が博多駅前の院の運営を始めたのは、2026年4月である。現在も病院で非常勤勤務を続けている。ここからは、クリニック運営の視点で、この治療の可能性と、グループ院として運営する道を選んだ理由を聞いた。
医療としての可能性とは別に、クリニックを運営する立場から見て、この診療にはどのような可能性や魅力があると感じていますか。
この治療は総合病院でも行えます。私が今、非常勤で働いている病院でも、整形外科の先生と協議しながら提供しています。専門の先生とその場で相談しながら進められることは、総合病院ならではのメリットです。
ただ、日本では、保険診療と自費診療の混合診療は、原則として禁止されています。そのため、既存の保険診療では改善していない患者さんに、新たに自費診療を提供しにくいことも問題です。またこの治療は、整形領域だけでなく、頭痛や肩こり、泌尿器科・婦人科・消化器の領域など、診療科をまたぐ治療でもあります。そのため、決断と展開の早いクリニックが向いていると思います。
「それぞれが独立で行うには、まだ領域が未発達すぎる」
新谷氏は、オクノクリニックのグループ院として同院を運営している。オクノクリニックの総院長は、奥野祐次氏である。
ご自身でゼロから開業するという選択肢もある中で、グループ院という形を選ばれたのはなぜですか。
この治療はまだ新しく、発展が非常に速い分野です。この治療を開発・展開した奥野先生と一緒に、日本や世界に展開していくことに、より意味があると思いました。それぞれが独立で行うには、まだ領域が未発達すぎると思います。
実際に運営してみて、導入前に想像していたことと違いはありましたか。メリット、難しかったこと、想定外だったことを教えてください。
メリットは、治療の質を高い水準で維持できること、そして新しい情報を得やすいことです。本部の方たちのサポートも心強く感じています。
今のところ大きな難しさは感じていませんが、すべてを自分の判断で決められるわけではない、という点はあります。ただ、目指す方向が同じであれば、ともに発展していけると思っています。
運営を始めたのは2026年4月なので、想定外のことはこれから出てくるのかもしれません。新しい治療を提供するには、安心と信頼が必要です。そのためには、グループ院という道も良いのかなと思います。
この記事を読んで、同じ志でこの治療に関心を持つ医師が現れたら、どのように受け止めますか。
難しいところもあります。この治療は、中途半端にはできません。知識も技術も必要で、奥野先生が開発し、広めてきたものですから、見よう見まねでできるものではありません。
ただ、相談や見学、質問を受けることはもちろんしたいですし、研究会や市民公開講座といった形も考えています。連携は、あったほうがよいと思っています。いまは、こちらから働きかけなければならない段階なので、知っていただいて、アクションをいただけるのはありがたいです。
「開業は、何のためにしたいのか」
これから開業される先生や、既存のクリニックに新しい診療メニューを取り入れようと考えている先生に、実際に運営されている立場から伝えたいことはありますか。
何のために開業したいのか。それを、より明確にしていかなければならない時代だと思います。僕は、この治療を行うのでなければ、総合病院で勤務医を続けていたと思います。その治療やクリニックが地域に本当に必要とされるものでなければ、自分にとってのやりがいは得られないと考えたからです。
新しい診療メニューについても、何のために取り入れるのか、ということだと思います。メニューの多い店より、少なくても良いものを提供する店に通うのと、一緒かもしれません。
〒812-0013 福岡県福岡市博多区博多駅東2-5-37 博多ニッコービル404号室
JR・地下鉄「博多駅」筑紫口より徒歩約2分(同院による)
完全予約制(同院による)・自費診療
https://okuno-y-clinic.com/access/hakata
オクノクリニックは全国に複数の院を展開している(公式サイト、2026年10月5日閲覧)。総院長は奥野祐次氏。
