「自分の家族に勧めないことは、絶対にしない」
固定の休みを持たず、複数のクリニックを非常勤で回り、月に300人以上を診る。必要な機器や薬剤は、勤務先のオーナーに自分から求める。美容皮膚科医の坂田美紗さんの働き方は、常勤とも開業とも違います。その働き方をどう選び、何によって成り立たせているのか。ドカリープロデューサーの髙山岳大が伺いました。
取材は夜10時を回ってから始まった。この日は、坂田さんの誕生日だった。
「休みを取るのは、プライベートの予定がある日のみ」
まず、いまの稼働の形から教えてください。
月曜は、老舗のクリニックに1日。あとは、複数の院を持つグループのなかを回っています。都内に3院と、月に一度、都外の院に。古巣の名古屋のクリニックにも月に数日行きます。
曜日で勤務先が決まっているわけではないんですね。では、固定のお休みはあるんでしょうか。
ないです。食事等、プライベートの予定がある日のみ休みを取ることが多いです。
さらりと言って、笑う。休みは月に5日ほどだという。
日曜は休むことが多いんですけど、日曜に来たい患者さんもいるので、毎週というわけでもないです。
そもそも、常勤ではなく非常勤という立場を選ばれたのは、なぜですか。
もう、縛られるのが嫌で、常勤をやめました。休み希望を出す度に嫌な顔をされたり、月の休みの数や、勤務の数が決まっているのが自分の性格に合わなかったです。目一杯200%で働いて、プライベートも全力。そういるために、今の選択をしました。
患者さんは、どれくらい診ていらっしゃるんですか。
いまはもうカウントしていないので感覚ですけど、300人くらいはいるんじゃないですかね。以前は予約を1列で取っていたんですけど、いまは2列にしています。数えてみたら、7月は376人の患者様にご来院いただいていました。
「キラキラ女医ではないので」
勤務先が変わっても、患者さんがついてこられますよね。それはなぜだと、ご自身では分析されていますか。
どうなんでしょう。私、キラキラ女医ではないので。
(笑)
毎月お会いしている患者さんも、何人もいらっしゃるので。患者さんとドクター、ではなくて、人と人としての関係を築いていきたいと思っています。
ちょっと斜めからの質問で恐縮ですが、それは負担ではないんですか。
楽しいです。
即答だった。「負担になる先生もいそうですよね」と、本人が付け加えた。この考えは、いつ固まったのだろうか。
以前の勤務先に入ったとき、自分は全然、名前が知られてなかったんですよ。何かしら自分に付加価値をつけなければ、患者さんは通ってくださらないと思いました。そんな自分を大事にしてくださっている患者さんには、それ以上に恩返しをしたいなって、常日頃思っております。
いまはもう、名前が知られていると思いますが。
いえ、そんなことはないです。
患者さんとの関係で、決めていることはありますか。
不要なものは勧めない。無理はしない。
診療のうえで、譲れないと決めていることは。
自分の家族に勧めないことは、絶対にしない。
「自分より上手い人がいるところには、手を出さない」
休みの日はどう過ごされているのか、と聞いた。返ってきた答えが、そのまま診療の話につながった。
食事ですね。あとは運動とか、旅行もそこそこ。何でも好きです。
お料理はされるんですか。
ほとんどしないです。基本的には食べる専門でございます。
手先が器用でいらっしゃるのに。
自分より上手い人がいるところには、手を出さないんです。同じくらい美味しいものは作れないので、それなら自分に得意な仕事をして、美味しいものにお支払いした方が効率がいいかなと思います。料理をする時間があったら、少しでも患者さんとのやりとりをしたり、SNSの投稿等をしたいと思ってしまいます。女性としては最悪かもしれません……。
笑い話のようだが、この線の引き方は、診療でもそのまま貫かれている。
そもそも、なぜ美容医療の道に進まれたんですか。
父が医師で、「医者はいいよ」と言われて育ったんですけど、病気には興味がなくて。ちょうど高校生のときに、美容皮膚科がメディアに出始めたんです。それを見て、これがいいんじゃないって母が勧めてくれました。ただ、本当は目周り専門の外科医になりたかったんです。
手を動かして何かを作るのは、もともとお好きだったんですね。
小さい頃から、折り紙とか好きでしたね。何かを見て、真似て作るのはすごく得意なんですけど、ゼロから1を生み出すのは、あんまり得意じゃなかったです。
そこから、いまの領域に絞られていったのは、どうしてですか。
外科も教えてもらえる、と言われて次の職場に入ったんですけど、結局その枠が持てなくて。オペの見学もできない状態が続いて。
そのとき、患者さんへのご提案はどうされていたんですか。
毎月通ってくださっていて、肌の管理もしっかりされている患者さんに、自分の外科処置を自信を持ってご提案できるかと言われたら、そうじゃなくて。それは上の先生にお願いして、紹介していました。
売上のことだけ考えたら、まず自分で取りにいくところですよね。
そうかもしれないです。でもそれで患者様を踏み台にするなんて絶対に嫌でした。自分自身も家族が目の前の患者さんだった時に、上の先生にお願いしたいと思ったんです。それで、いまの領域に絞りました。やりたかったわけではなく、そうなってしまった、というのが正しいです。いまでも、外科が学べるのであれば学びたい気持ちはあります。
諦めたわけではなく、いまはそのタイミングではない、ということだった。
患者さんとの関係を築くうえで、他の先生がやっていないことがあるとすれば何ですか。
患者様の立場に立ってコスパを考えることでしょうか。薬剤には安かろう悪かろうがありますが、同じ技術であれば安い方がいいに決まってます。技術、人柄、価格全てを揃えられるように、集客も含め日々努力しているつもりです。
新しい薬剤や機器にも、積極的にアンテナを張られるほうですよね。
そうですね。
学びの機会は、どうやって作っているんですか。
教科書もたくさん読みますし、学会にも、講習会にも参加します。でも結局、自分の実践が全てだと思うんです。今回うまくいかなかったな、じゃあ次はこうしてみようかな、の繰り返しでブラッシュアップされていく。
休んでいる暇がなさそうですね。
休んだら、自分の手が鈍る気がするんですよね。
懐の深いオーナーに恵まれて
この働き方でいちばん特徴的なのは、非常勤という立場でありながら、必要な機器や薬剤をオーナーに自分から求めている点だ。きっかけは、一度離れた職場に戻ったときのことだった。
条件の話が途中で変わってしまって、短い期間で辞めることになったんです。すぐに次が決まるわけでもなくて。自分が知っているクリニックのなかで、薬剤も機器も揃っていて、患者さんが通いやすい場所はどこかなと考えたら、前にいた院だったんですよ。それで、申し訳ないんですけど、もう一度働かせてほしいです、とお願いしました。
言えたんですね。
全然いいですよ、じゃあ一度食事に行きましょう、と、言って下さったんです。一度離れた身である自分を快く受け入れて下さって、懐の深さに、絶対に恩返しをしようと決めました。その席で、「先生が欲しいと思っているものは患者さんのニーズに沿っていると思うし、他の先生も欲しいものだと思うから、遠慮なく言ってください」とまで仰って下さったんです。
求めるかどうかの判断基準は、どこにありますか。
患者さんのニーズに沿っているかどうかですね。
オーナー側から見て、先生の要望を通す理由があるとすれば、何だとお考えですか。
オーナーにお願いするには、自分に売上がなければ、その権利はないと思っているんです。徹底的に市場調査もしますし、メーカーにも自身で問い合わせてリスク等も含め詳細を聞いたり、他の先生にもご意見伺ったりします。
順番が逆なんですね。売上が先にあるのではなくて、患者さんに必要なものを院に入れてもらうために、先にご自分が結果を出している。求めるものの基準は、最後まで患者さんの側にある。
そうですね。
「手元に潤沢な資金があるなら、自分でやりたい」
以前、坂田さんはこう話していた。すべてを叶えてくれるオーナーが現れれば、その人のもとで開業する、と。自分で開業するのではなく、オーナーのもとで、という形を想定しているのはなぜだろうか。
手元にすごく現金があるんだったら、自分でやりたいですよね。
ご自身でやるほうが、本当は第一希望なんですね。
100%自由にできるのは、自身で開業した時のみと思っています。でも、いま勤務させていただいているクリニックにある機械と薬剤を、同じ価格で全部揃えられるかと言われたら、個人では無理だと思います。また、今働かせていただいているクリニックには知名度があり、その中で私を選んで下さっている患者様もいらっしゃいます。自分の知名度は、開業するにあたって全然足りてないと思います。
開業を否定されているのではなく、条件が揃うまで保留している、ということですね。では、勤務先を選ぶときは、何を基準にされますか。
自分が使いたい薬剤と機械があること。あとは、患者さんにとって通いやすい価格と立地。それと、看護師さんが技術に優れ、丁寧な接客をしてくださることです。
「あとは、気合いです」
この働き方は、誰にでも真似できるものではないと思います。成立させている前提条件を挙げるとしたら、何ですか。
個人でのブランディングが、それなりにできること。あとは、気合いです。
意外です(笑)。気合いの真意を、ぜひ教えてください。
いまある指名が、来月の指名につながるとは限らないので。もう本当に、一寸先は闇だと思って日々頑張る。それが一番大事だと思います。
これから同じ道を目指す先生が、最初に手をつけるべきことは何だと思われますか。
名前のないクリニックでは、絶対にできないと思います。ある程度名前があって、フリーの新規集客ができているクリニックに属すこと。私は、そういう院に入れたことが本当にラッキーだったなと思っています。おかげで1年で、自分で新規の患者さんを集められるようになりました。
技術を磨く場所と、その技術を見てもらえる場所は違う、ということですね。では逆に、この働き方を選ぶべきでないのは、どういう先生でしょう。
たくさん働きたくない人には、向かない働き方かもしれないですね。プライベートな時間は、正直、あまりありません。
周りの先生から、理解されにくいと感じたことは。
たくさんあります。今でもなんとなく後ろめたさがあります。特に学会に参加したときなど……。大手に属して、年功序列で、知り合いのクリニックに引き抜かれて順調に進んでいくのが、たぶん普通だと思うんですけど。アウトローにも程がある、と思います。
いえ、僕はそう思いません。ほかの先生が、なかなか真似できないだけだと思っています。
「もっと患者様に愛され、選ばれる医師になりたい」
5年後、10年後は、どうなっていたいですか。
もっと患者様に愛され、選ばれる医師になりたいです。何ヶ月も先まで予約が取れなくなるくらいになれたら幸せだなと思います。
ご自身を一言で表すとしたら、と尋ねると、返ってきたのは、やはり「気合い」。そして「猪突猛進」だった。笑って、こう続ける。「意外ですか? なるようにしかならないので。その日のベストを尽くすのみです」。
終始、湿っぽいところのない人だった。忙しさの話をしても、からりと笑う。それでいて、患者さんの話になるところだけは、言葉がはっきりした。
多くの先生が、どこかのクリニックに所属することを前提にキャリアを考えます。それも一つの選択肢です。ただ坂田先生の動きを見ていると、これは新しい働き方だなと思うんです。この形を選ぶには、技術だけでなく、結果を出す力が伴わないと難しい。だからこそ、いろいろな先生に見ていただきたいと思って、この記事をお願いしました。
一つめは、線の引き方です。「自分より上手い人がいるところには、手を出さない」。料理の話として出てきた言葉ですが、診療でもまったく同じことをされています。自信を持って出せないものは、上の先生に紹介していた。信頼は、やったことよりも「やらなかったこと」で積み上がるのだと思います。
二つめは、順番です。売上の話が出てくるので誤解されるかもしれませんが、聞いていくと、売上は目的ではなく条件でした。患者さんに必要なものを院に入れてもらうために、先にご自分が結果を出す。基準は最後まで患者さんの側にあります。
三つめは、環境の選び方です。指名ゼロから始めるなら、まず新規の患者さんと出会える場所に身を置くこと。技術を磨く場所と、その技術を見てもらえる場所は違います。運の要素はありますが、狙って選ぶことはできます。
そして何より、患者さんとの関係について「楽しいです」と即答されたことです。もっと選ばれる医師になりたい、という目標もはっきりしている。カラッとしていて、芯が通っている。この働き方が続いている理由は、条件の話よりも、たぶんそこにあります。
髙山 岳大 ドカリープロデューサー株式会社シフトメディカル 代表取締役。連載「開業のリアル」ほか、Docallyの取材を担当。
運営元グループのサービス本連載は、医師のキャリア支援サービス CADRE(カドル) の提供でお届けしています。CADRE は Docally の運営元グループのサービスです。企画・取材・編集は Docally 編集部が行い、掲載内容は取材先ご本人の確認を経て公開しています。
